第10話 黒幕との戦い
黒幕が本性を現した。真実を話そうとしたウラガネを始末するため、黒幕は魔力を解放して炎を発し、ウラガネを燃やした。炎の渦が消えた後、ウラガネの姿はなかった。かなり強い炎を使ったのだろう。奴の体は炎で焼かれ、灰になってしまったのか。
「あ……あ……そんな……」
ティノちゃんは黒幕を知って、相当ショックを受けているようだ。今回の騒動の黒幕、それはエルラさんだ。エルラさんは汚物を見るような目で私を見て、口を開いた。
「私の正体を知った以上、生かすわけにはいかないわ」
「私の方も死ぬわけにはいきません。あなたを倒して話を聞きます」
私は奴にそう答え、素早く奴に接近して飛び蹴りを放った。奴は私の攻撃を察していたのか、魔力でバリアを張っていた。それでも、奴を後ろへ吹き飛ばすという目的は達成できた。
「ティノちゃん! 今すぐ私から離れて、安全な場所に避難して!」
私の目的はティノちゃんを奴から遠ざけること。本性を現した奴がティノちゃんを人質にする可能性がある。まずはその可能性を潰す。
「チッ! 人質にしようとしたのに!」
「卑劣なことは考えない方がいいわ。大体うまくいかないからね」
舌打ちをした奴に向かって、私は剣を持って襲い掛かった。だが、奴は私に向けて炎の刃を放った。攻撃の前、魔力を察知した私は魔力を剣に注ぎ、奴の攻撃を弾き飛ばすように構えを取っていた。
「テアッ!」
私は声を発しながら剣を振り上げ、飛んで来た炎の刃を空高く打ち上げた。それを見た奴はにやりと笑い、私にこう言った。
「田舎のギルドの戦士のくせになかなかやるわね」
「自分の仲間を殺すような人に褒められても嬉しくないですね。ケサクの傷を治していると思っていましたが、あの時に殺したんですね」
「ご名答。回復するふりして魔力を使って静かにとどめを刺して、私の都合のいいゾンビとして動かしたのよ」
こんな時に呑気にお話をする余裕はないのに。いや、話をする余裕があるということは、奴はまだ本気を出していないということか。それに、ケサクがいつ死んだのか分かった。カニバモンキーに襲われた後、怪我を負ったケサクを治療するふりをして殺したんだ。
「本気を出さないんですか?」
「まさか。あなたみたいな名のない剣士相手に本気を出して勝っても嬉しくないわよ」
「人を見下すのは止めた方がいいですよ。それと、上には上がいる。そのことを頭に叩き込んでいた方がいいですよ」
私がこう言うと、奴は大きな声で笑い始めた。
「確かに私よりすごい魔力使いはいると思うわ。でもね、あんたのような格下がそんなことを言える立場かしら?」
「そういう立場だから言えるのよ」
私の言葉を聞き、奴は苛立ったような表情を見せた。腹が立つのは私の方だ。まさかこんな奴に格下に見られていたとは思ってもいなかった。
「私の本気を見たいのね。それなら、見せてあげるわよ!」
と言って、奴は魔力を解放して周囲に火の玉を発した。それを見た私は奴の攻撃方法を理解した。火の玉を発して攻撃。そして、その火の玉には追尾機能がある。
「さぁ、この攻撃を受けて焼け死んでしまいなさい!」
奴はそう言った後、火の玉を私に向けて放った。ここは森。どこかに火が付けば森林火災となって大変なことになる。ここは火の玉をかき消すしかない。私は魔力を解放し、飛んで来る火の玉に向かって剣を振るい、かき消し始めた。
「へぇ。魔力もそれなりにあるようね」
私の動きを見た奴はそう言った。奴にはまだ余裕がある。どうやって奴の余裕を崩そうか。
(エクス。俺を使え)
と、ヴァーギンさんが私の脳内に語り掛けた。本来なら奴みたいな弱者にヴァーギンさんは使いたくないけれど、使えと言われた以上使うしかない。
(奴の攻撃方法は察知しただろ? 火の玉を消していても、奴にダメージを与えない限り攻撃は続く。ここは攻撃の隙を見て奴にダメージを与え、動きを止めるしかない)
ヴァーギンさんのアドバイスが聞こえた。確かにその通りだ。飛んで来る火の玉を消しても時間の無駄。なら、本体を叩けばいい。
「何ボーっとしているのかしら? そんなに死にたいなら早く殺してあげるわよ!」
奴は叫びながら火の玉を発した。私は後ろにいるティノちゃんを見て、大きな声で叫んだ。
「ティノちゃん! 火の玉が飛んで来ると思うからちゃーんとバリアを張って!」
「は、はい!」
ティノちゃんの返事を聞き、安心した私は火の玉をかわしながら奴に近付いた。
「なっ! そんなバカな!」
奴にとってもこの火の玉の攻撃は自信がある攻撃だったのだろう。ご自慢の攻撃があっさりと回避されるもんだから、相当驚いただろう。
「残念だったわね。言ったでしょ? 上には上がいるって」
私は奴に近付き、ヴァーギンさんを素早く二回振るった。一回目の斬撃で奴の右手を斬り落とし、二回目の斬撃で奴の左足を斬り落とした。
「なっ……ギャアアアアアアアア!」
痛みが体中に走ったせいか、奴は大声で悲鳴を上げた。ふぅ、楽な戦いだった。だけど、このまま長時間戦っていたら、こっちが不利になっていたかもしれない。私は奴の斬り落とした右手と左足を遠くへ蹴り飛ばした後、奴の切り口を治癒しながらこう言った。
「さて、それじゃあ話をしてもらうわよ」
私は奴の顔に近付いてこう言った。
私は奴の体を縄で縛りつけ、地面に倒した。ティノちゃんは怯えているせいか、私の背中に隠れていた。
「それじゃあいろいろと話をしてもらいます。嘘を言ったらもう一本の腕か足を斬り落としますので、覚悟してくださいね」
私がこう言うと、奴は観念したのか口を開いた。
「私はギルドの戦士だが……別の組織にも入っている」
「別の組織ですか。それじゃあこの森に入ったのも、その組織に言われてですか?」
「その通りだ。私が所属しているある組織は、政治家とのパイプもある。ウラガネもその一人だ。組織はウラガネの別荘を見るという嘘の目的を利用し、この森を調べろと私に命令したのだ」
「だからウラガネはこんな森に別荘を建てたいというバレバレな嘘をついたのですか。すぐわかる嘘を言ってもすぐにばれるのに」
「政治家と言う立場を利用すれば、どんな嘘も揉み消すことができるからな」
「そうですね。それよりも、あなたの本当の目的が重要です。話をしてください」
私は奴の目を見ながらこう言った。奴は目を閉じ、ため息を吐いて答えた。
「この森のどこかにはゴクラクキブンと言う草がある。それが目的だ」
ゴクラクキブン。これは違法な煙草に使われる毒草だ。吸えば全身の力が抜けるような感覚がし、脳もふわふわとしたような気分になると言われている。中毒性も強いが、使用した後の副作用も強い。通常の煙草の倍以上のニコチンがあると言われ、一日に三本も吸えば死んでしまうと言われている。得られる快楽が強いため、裏の世界では高値で売買されていると言われている。まさか、そんな危険な植物がここに……いや、私が所属しているギルドはそれを知っているからこそ、ここを立ち入り禁止としたのだろう。
「どうしてこの森にゴクラクキブンがあると知ったんですか?」
「ネットだよ。今はインターネットでありとあらゆることを知ることができるから」
まさかネットの世界にそんな情報があるとは思わなかった。だが、ネットの中には正確な地図と、その周囲の映像を調べることができるサイトやアプリが存在する。奴らはそれでこのことを知ったに違いない。
「あなたの組織はゴクラクキブンをあなたに探させるためにこんなことをしたんですね」
「そうだ。ウラガネにもこの話を伝え、ゴクラクキブンで儲けた金の四割ほど渡す予定だった。だが、お前がいたせいで計画は破綻したがな……」
と、奴は負け惜しみを言うようにこう言った。そんな中、ティノちゃんが泣きながらこう言った。
「どうしてこんなことを……私はあなたのことを本当の姉のように慕っていたのに」
「あんたに慕われようが私が知ったことじゃないわよ。それに、ずーっと金魚のフンの用にくっついてくるあんたはうざかったから嫌いなのよ」
この言葉を聞いた私は奴の顔面を強く蹴った。その後、ショックを受けたティノちゃんを慰めた。
「あんな奴の言うことを聞かなくていいわ。犯罪を犯した時点で、奴はもう人として最悪な奴だから。最悪な奴に何を言われても、気にしない方がいいわ」
「はい……はい……」
ティノちゃんは泣きながら返事をしたが、ティノちゃんはまだ幼い。この状況が耐えられなかったのか、しばらくして泣き始めた。私はティノちゃんを抱きしめ、優しく頭を撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます