第9話 森の中で響き渡る斬撃


 さーて、ようやくウラガネの本当の目的を知ることができる。別荘を建てたいと言っておきながらこんな物騒な所に入るなんて、絶対に目的がある。私はそう思いながら、恐怖で体を震わせるウラガネを睨んだ。


「早くあなたの本当の目的を教えなさい。大金を払ってまで、どうしてこんな危険な所へ入ったんですか?」


「言えるか! そんなこと、絶対に言えない!」


 ウラガネは首を振り回しながら拒否した。この返事を聞く限り、奴は誰かから頼まれてここに来たのだろう。


「では質問を変えます。あなたは誰かにここに何かがあると言われ、それを目的として来たんですか?」


 第三者の存在を察したかのようにこう聞くと、奴の体は一瞬だけ止まった。図星だ。本当のことを言われたから、動揺して体の動きが止まったんだ。


「違う。私は別荘のために……」


「嘘を言わないでください。まぁ、ギルドへ戻れば自白剤を使って洗いざらい喋ることになりますけど」


 私がこう言うと、ウラガネは目を開いて私に近付いた。


「ふざけるな! 自白剤を使うだと? 政治家である私にそんな薬を使うつもりなのか!」


「ええ。事情が事情です。それに、許可なしにここに入った以上、あなたは不法侵入の罪に問われます」


「そんな罪、権力で揉み消してやるからな!」


「へぇ。やってみてくださいよ」


 私はそう言いながら、隠し持っていた小型マイクを奴に見せた。奴に話しかける前、気付かれないように小型マイクのスイッチをオンにしていたのだ。これで、奴が侵入禁止エリアに無断で入った証拠が完成した。


 奴の目的を知るまでは当分かかるだろう。それは時間をかけてやる。その前に、行方が知らないケサクのことを探さないと。


「ねぇ、ケサクがあなたの後を追いかけてここに入ったんだけど、何か知らない?」


「ケサクが? 私は何も知らないが……」


 奴は私の目を見て答えている。この言葉に嘘はない。だとしたら、ケサクは一体どこに消えたのだろう。侵入禁止エリアは広いから、ウラガネを追っているうちに迷子になったのだろう。だけど、迷ってニクズキベアーなどのモンスターと戦った時に魔力を使うはず。侵入禁止エリアに入って感じた魔力は私たちの魔力だけだ。これは、最悪なことを考えた方がいい。


「皆。とにかく一度戻りましょう。ウラガネの事情聴取はギルドへ戻って行い、後で援軍と共に再び侵入禁止エリアへ入り、ケサクを探します」


「いえ……その必要はないみたいよ」


 と、エルラさんがこう言った。彼女が指を指す方向を見ると、傷だらけのケサクがこっちへ向かって歩いて来ていた。よかった、生きていたのね。


「ケサクさん! 生きてたんですね! 心配しましたよ、本当に!」


 安堵の表情のティノちゃんがケサクに近付いた。だがその時、ケサクの表情がはっきりと分かった。奴の顔色は緑色に染まっていて、目は白目を向いていた。明らかに異常だ!


「危ない!」


 私は剣を鞘から抜き、急いでティノちゃんの元へ駆け寄った。間一髪、ケサクの攻撃を受け止めることができた。


「あ……ああ……」


 いきなり知り合いが襲って来たからか、ティノちゃんは腰を抜かしている。この状況はまずい。私は魔力を解放して強風を発し、ケサクを後ろの木に向けて吹き飛ばした。


「ヒェェェイ!」


 私が発した強風にあおられたウラガネが転倒したが、今は奴のことを心配している場合じゃない。ケサクをどうにかしないと!


「エルラさん! ティノちゃんを守って! ついでにあの男も!」


「は……はい!」


 エルラさんは急いでティノちゃんとウラガネの元へ駆け寄り、バリアを張った。これで安心してケサクと戦える!




 剣を構えなおして数分が経過した。さっきの強風でかなり遠くまでケサクを吹き飛ばしてしまった。だが、何が何でもこっちに来るのが遅すぎる。異常な状態だから、歩くのが遅くなっているのか? そう思っていると、ゾンビみたいな動きをしながらケサクが姿を現した。奴の姿を見て、私はすぐに剣を振り上げて奴に接近した。掛け声と共に剣を振り下ろし、奴の左腕を斬り落とした。ギルドの戦士とはいえ、私に襲い掛かって来た以上、犯罪者となる。奴の愚行も後でギルドに連絡しなければ。


 私はケサクの左腕を斬り落とし、異常を察した。奴の左腕を斬り落とした時、少量しか血が流れなかった。いつもだったら、切り口から大量に血が流れる。体の中で血が固まっているのかと私は思った。その時、奴の体に何が起きたのか、どうしてこの状態になったのか理由が分かりかけた。


「ガァァァァァ!」


 奴は叫び声を上げながら、私に噛みつこうとした。その前に私は奴の腹に蹴りを入れ、後へ転倒させた。その時、靴底から何かが付着したことに気付いた。


「何これ?」


 靴底に顔を近付けた瞬間、とても嫌な臭いがした。靴底を見ると、腐敗した何かがくっついていた。それを靴から取ろうとしたその時、蹴られたはずの奴が再び立ち上がり、私に襲い掛かった。


「グッ!」


「ああ! エクスさん!」


 後ろからティノちゃんの声が聞こえた。奴は私の首元に向かって右手を伸ばし、力強く締め付けている。苦しいけど、片手だけじゃあ窒息死するまでにはいかない。私は右手で奴の顔面を殴り、拘束から解かれようとした。奴の右手から解放されたが、とんでもない光景が私の目の前で繰り広げられていた。


「う……嘘でしょ」


 思わず声が出てしまった。さっきのパンチを受けた奴の首は、百八十度回転していたのだ。


「え……エクスさん……やりすぎじゃあ」


「私はそんなに力を込めて殴ってないわ」


 ティノちゃんは私が奴を殺してしまったのではと思っているようだ。だけど、首が曲がっても奴は動いている。いきなり私の姿が消えたから、動揺して探しているようだ。だけど、これではっきりと奴の状態を理解することができた。これなら、心配することなく奴を斬ることができる。私は剣を握り、ウロチョロする奴に近付いた。かなり接近したけど、奴は私に気付いていない。斬るとしたら、今がチャンスだ。


「たぁっ!」


 私は掛け声を放ちながら剣を振り下ろした。この声を聞いた奴は私の存在に気付いたが、遅かった。私の剣は奴を真っ二つに切り裂いたからだ。


「あ……あ……ケサクさん……」


 仲間が死んだ光景を見て、ティノちゃんはショックを受けているのだろう。ウラガネはバリアから出てきて、私に近付いた。


「いくらなんでもこれはやりすぎだろ! 襲い掛かってきたとはいえ、殺すのはやりすぎだ!」


 ウラガネは奴の死体を見ながら私にこう叫んだ。私はため息を吐きながら、ウラガネにこう言った。


「私と戦う前から、奴は死んでいました」


「何?」


「左腕を斬り落とした時、血が流れなかった。死んで体の機能が全て停止し、血が中で固まっていたからだと思われます。戦いの中、私はあるものを踏みました。それは奴の腐敗した皮膚でした。それと、私の軽いパンチで奴の首が簡単に回転しました。首が後ろに向いた状態でも、奴は動いていました。理由は一つ、誰かがケサクを殺した。それか、誰かが死んだケサクの死体を利用して私たちに襲わせた」


 私はそう言いながらエルラさんとティノちゃんを見回した。ケサクがすでに死んでいたとは別に、私は今回の騒動の黒幕がここにいることを把握した。そして、そいつがウラガネにここに何かがあると告げ口したことも把握した。


「ウラガネさん。あなたは本当の目的を口止めされているんじゃあありませんか? もし、このことを話したら殺すと脅されているんじゃあありませんか?」


 私の言葉を聞き、ウラガネは私が全て察したと思ったのだろう、一瞬だけ安堵した表情を見せた。


「実は私は……」


 その時だった。突如炎が現れ、ウラガネを包み込んだ。さて、黒幕が本性を現したか!

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