第8話 侵入禁止エリアへ向かえ


 翌朝。私は目が覚めてすぐに大変なことが起きたと把握した。ウラガネとケサクの姿がなかった。


(気付いたか、エクス)


 ヴァーギンさんが私の脳内に語り掛けてきた。私は目をつぶり、ヴァーギンさんに夜のことを聞いた。


(エクスたちが眠っている間に、ウラガネが起き上がって侵入禁止エリアへ向かった。そのことに気付いたケサクがその後を追いかけた)


 と、ヴァーギンさんが返事をした。これはまずい。私でも入ったことがない侵入禁止エリアへ入ってしまったのか。うーむ……変なことを考えているのは分かっていたが、まさか危険な夜の間に動くとは予想していなかった。ウラガネはかなり行動力があるのだろう。おっと、そんなことを思っている場合じゃない。私はすぐにエルラさんとティノちゃんを起こし、この状況を伝えた。


「大変なことになったわね。まさか……」


 エルラさんは落ち着いた様子で返事をしていたが、内心は焦っているのだろう。周りを見渡していた。ティノちゃんは慌てながら右往左往していた。


「二人とも、ちょっとここで待機してもらってもいいでしょうか? 今からこのことをギルドに伝えますので」


 私がこう言うと、ティノちゃんは驚いた表情を見せてこう言った。


「ギルドへ戻るんですか? ここは電波が悪いから携帯電話が繋がりませんが……」


「そんな時間がかかることはしないわ。ま、見てて」


 私は両足に力を込め、森の木々よりも高く飛び上がった。木よりも高くジャンプすれば、電波は届く。私は宙に浮きながら携帯電話を手にし、ギルドへ連絡した。


「エクスです。ウラガネさんとケサクさんが侵入禁止エリアへ入ってしまいました。今から捜索へ向かいますので、侵入禁止エリアへ入る許可をください」


 私はそう言うと、電話越しからドタバタする音が聞こえた。魔力を解放しているから、ジャンプした時の到達点から落下まではかなり時間がある。その間に返事があればいいけど。


「許可が下りました。今すぐ侵入禁止エリアへ向かい、お二人の捜索をお願いします」


「分かりました」


 ふぃー、早く許可が下りてよかった。私は安堵の息を吐きながら地面に着地し、エルラさんとティノちゃんにこのことを話した。


「さ、支度をして行きましょう」


 私はそう言うが、二人は私のジャンプ力を見て、目を丸くして驚いていた。




 支度をした後すぐに私たちは侵入禁止エリアへ入った。ここに何があるのかは聞いたことがない。だから、私はどうしてこの部分だけ侵入禁止になっているのか理由が分からない。聞いたことがあるが、ギルドの上役じゃないとこの情報は聞けないと言っていた。


「ここに一体何があるんでしょうか……」


 と、ティノちゃんはおどおどとしながら私にこう聞いた。


「うーん……私もここに入るのは初めてだから、何でここが侵入禁止か分からないのよ」


 私の答えを聞き、ティノちゃんは驚いていた。危険な場所もあってか、ティノちゃんは見ただけで緊張していることが分かる。逆に、エルラさんはかなり落ち着いていた。もし、何かと遭遇したらエルラさんに援護を頼もうかな。


 侵入禁止エリアへ入って数分が経過した。木の上から野獣のような鳴き声が聞こえる。私たちの存在を察し、危険な野獣が私たちを食べるために見ているのだろう。だが、野獣は一匹じゃない。群れで動いている。


「気を付けてください。モンスターがいます」


 私が小声でこう言った直後、上から巨大な影がいくつも現れた。こいつらはニクズキベアー! 森の奥深くに生息する危険な熊のモンスターだ。こいつの爪は安物の剣の刃を破壊するほどの強度がある。それに、奴らの腕を振るう速度はかなり素早い! こんな物騒なモンスターがこの森にいたのか!


「ティノ、魔力を解放して!」


「は……はい!」


 エルラさんとティノちゃんは魔力を解放し、無数の氷の刃を放ってニクズキベアーを攻撃していた。だが、二人が放った氷の刃はニクズキベアーの爪によって粉砕された。


「なっ! 魔力の氷を打ち壊すの!」


「あわわわわわわ! そんな! そんなぁ!」


 二人が動揺している時に、ニクズキベアーは二人に接近した。私は二人の前に立ち、ニクズキベアーの両腕を斬り落とした。


「油断しないで! 奴らの爪はかなり固いわ! 倒すには、かなり強い魔力じゃないとダメよ!」


 私がそう言っている途中で、別のニクズキベアーが襲い掛かった。私はそのニクズキベアーのあごに向けて蹴りを放ち、攻撃を受けた隙にニクズキベアーの首に目がけて剣を突き刺した。攻撃を受けたニクズキベアーは悲鳴を上げつつ、血を流しながらその場に倒れた。その後、他のニクズキベアーは私を見て動揺した様子を見せていた。


「何? やるなら殺すわよ?」


 私は動揺しているニクズキベアーを睨んでこう言った。この言葉が通じたのか、ニクズキベアーは私から逃げて行った。


「ふぅ、あいつらが意外と賢くてよかったわ。無駄な戦いをしなくてすんだ」


 背中を逃げて走るニクズキベアーを見ながら私はこう言った。動揺していたエルラさんは冷静さを取り戻していたが、ティノちゃんはまだ動揺しているのか、体全体を振るわせていた。




 ニクズキベアーを追い払った後、私たちは再び歩き始めた。別のニクズキベアーの群れと遭遇して戦いになったが、私が睨むだけで奴らは逃げて行く。どうやら、奴らは無鉄砲なモンスターじゃなさそうだ。


 しばらく歩いていたが、ウラガネとケサクの姿は見えない。どこまで行ったんだあいつらは? 私は心の中で呆れながら歩いていると、少し離れた所の地面が変色していることに気付いた。急いでその場所へ向かって確認すると、その地面に血が落ちていることが分かった。すでに固まっているらしく、かなり時間が経過したものと思われた。


「これって……」


 後ろからエルラさんが話しかけてきた。私の脳裏にあることが浮かび、二人にこう言った。


「二人とも、最悪の展開になることを予想していてください」


「それって……もしかして……」


 状況を把握したのか、ティノちゃんは泣きそうな声でこう言った。最悪な状況、ウラガネとケサクはすでにこの世にいないこと。武器と戦闘能力を持たないウラガネ、そして口だけは立派な未熟な剣士のケサクじゃあこの侵入禁止エリアに生息するニクズキベアーに敵うはずがない。それに、ニクズキベアー以外にも危険なモンスターが存在する。二人はそれらに殺された可能性が高い。


「とにかく二人を見つけましょう。どうしてこんな所に入ったか、理由も知りたいけど」


 私はそう言って歩き続けた。エルラさんとティラちゃんは仲間が死んだことに動揺していたのか、しばらく口を開かなかった。だが、歩くのを再開して数分経過した時だった。人の悲鳴が聞こえた。


「あれはウラガネの声!」


 どうやら、ウラガネが生きているようだ。だが、悲鳴を上げている以上、何か悲惨なことが起きていることは確かだ。とにかく、早く奴を助けないと!


 私たちが大急ぎでウラガネの声がした方へ向かうと、奴は大きな食人花の触手に捕まっていた。


「ウラガネさん!」


 エルラさんの声を聞いて、ウラガネの顔は安心の色に染まった。


「エルラ! 早くこいつを何とかしてくれ! 早く助けてくれ!」


 ウラガネがこう叫ぶと、食人花は口を大きく開けて早くウラガネを食べようとした。そうはさせない。私は急いで剣を取り、食人花の首を斬り落とした。首を斬り落とされたせいか、触手全体の動きが止まり、宙で浮いていたウラガネの体が落ちた。


「あだっ! あだだだだ……」


「危機一髪でしたね」


 私は剣を鞘に納めながらこう言った。さて、一体どうしてここに入ったか、奴の本当の目的は何なのか聞きださないと。

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