第7話 ティノとの会話


 何とかカニバモンキーを倒した後、私は周囲を見渡した。だけど……ちょっとやりすぎたかな? エルラさんとティノちゃんはちょっと引いていたし、ケサクは足腰が震えている。ウラガネはこの光景を見たせいか、白目を向いて気絶している。


「とりあえずカニバモンキーは全滅しましたし……もう少し休みますか」


 私がこう言うと、皆は頷いて返事をした。



 数分後、気を取り直した皆と共に私はファストの森を歩き始めた。カニバモンキーの襲来があったせいで、ケサクは常に剣を持って何が起きても対応できるように構えている。エルラさんの治療を受けて傷は治っているため、動けるまでには回復したようだ。ただ、あれから奴は一言も発していない。プライドが傷付いたのだろう。それにしても、奴の剣の構えはおかしい。素人が剣を持ったような構え方をしている。カニバモンキーの襲来でまだ気が動転しているかもしれないけど、エルラさんとティノちゃんはちゃんと我に戻り、微かに魔力を解放して戦いに備えている。ウラガネも戦いの邪魔にならないように後ろにいて、何があってもいいように逃げる構えをとっている。それでいい。戦えないなら逃げるのが一番の選択だ。


 森の中を歩き続け、私は進入禁止エリアの近くに到着した。たまにここを通るぐらいで侵入禁止エリアに何があるかあまり興味がなかった。だが、ヴァーギンさんと会話をしてここに何があるのか気になっている。そんなことを思っていると、ウラガネは私に近付いた。


「この辺りがいいな。別荘を建てるのにちょうどいい」


 と、言って来たのだ。別荘を建てると言っているが、周囲を見回した私はここで別荘を建てるのはダメだとすぐに言おうとした。木々が生い茂っているため、モンスターはそれらを利用して人々に奇襲するし、毒を持った小さな虫も存在する。もし、木々を斬り倒して別荘を建てるって言ってもかなり時間を使うだろう。そう思った私はウラガネさんに話しかけた。


「ウラガネさん。ここに別荘を建てるのは反対します。危険なモンスターもいるし、毒を持った虫も存在します。工事関係者に被害が及びます」


「構わん。私は正気だ。それに、工事関係者に被害が及ばないように策も考える」


 と、ウラガネは私にこう答えた。政治家はワガママが多いのかな? この周囲にそれなりに詳しい私が反対しても、こいつは無理矢理別荘を建てるかもしれない。まぁいいや、何かが起きても全部こいつの責任だ。そう思っていると、カラスの鳴き声が聞こえた。森の中だからあまり分からなかったけど、もう夕方か。


「夕方ですね。エクスさん、今から戻るのですか?」


 エルラさんが時計を見ながらこう聞いた。今から戻るにしても、夜の森の道はかなり危険だ。モンスターの動きも活発化するし、魔力で明かりを点けても暗くてはっきりわからない。戻るのは得策じゃない。


「ここで休みましょう。いざという時のために、バリアを張る魔石を持っています。これでモンスターの襲撃を対処できます」


 私はリュックからバリア展開の魔石を手にし、こう言った。皆嫌そうな顔をしたけれど、周りを見て仕方ないと思ったのか、腹をくくった顔をした。




 その後、私は人数分の寝袋を渡し、バリア展開の魔石を使ってバリアを張った。バリアが展開する時間は約半日。寝て起きてもバリアは展開しているから、モンスターが襲って来ても大丈夫。


「はぁ……風呂に入りたいなー」


 と、ウラガネの声が聞こえた。こういうことが起こるって考えていなかったのだろう。政治家はそれなりに頭がいいと思っていたけど、あまりこの人は頭の回転はよくない。エクスさんやティノちゃんはすでに寝袋に入って横になっている。ケサクも横になり、動いていない。もう眠っているのだろう。さっきから一言も喋っていないからちょっと不気味。いつの間に寝たんだろう。


「さて、私たちも眠りましょう。朝、起きたらすぐにギルドへ戻りますので」


「分かった分かった。それじゃあ私も寝る」


 文句を言うような口調でウラガネはそう言って、寝袋に入って寝た。さて、私も眠ろう。


 目をつぶって数時間経過しただろう。私は横で誰かの気配を感じた。横を見ると、ティノちゃんが私の方を見ていた。


「どうかしたの?」


 私は動きながらティノちゃんの方を向いた。私が眠っていたのと思っていたのだろう、私の声を聞いて驚いた。


「ふぇっ! すみません、眠っていたのかと思って……」


「目をつぶっていただけ。それで、何か用?」


「え……ええ」


「眠れないなら、寝るまで話をしましょうか」


 私はそう言った。それから、ティノちゃんは周囲を見回して、小声でこう言った。


「エクスさんはどうしてそんなに強いんですか?」


「鍛えたからね。この強さを手にするまでは時間がかかったけど」


 私は半年間の訓練のことを思い出しながらこう言った。ティノちゃんは感心するような声を上げていた。


「で、ティノちゃんはギルドでどんなことをしているの?」


 私がこう質問すると、ティノちゃんは思い出しながらこう話をしていた。


「私が所属するギルドでは、主に悪人の相手をしています。エルラさんとあの男とトリオを組んで悪人や、裏ギルドと戦っています。モンスターとは……あまり戦っていません」


「ああ。やっぱり」


 その言葉を聞き、ケサクがカニバモンキーと戦えなかったことを把握した。人の相手をずっとやっていたせいで、モンスターとの相手に慣れていなかったのだ。


「でも、裏ギルドを相手に戦うのもギルドの仕事よ。で、どんな奴を相手に戦ってたの?」


「麻薬組織や、テロ組織、不審な動きをする宗教団体です。でも、私は援護しかできません。敵を斬り倒すのはケサクさんの役目です。そのせいか、ケサクさんがうちのギルドのエースと言われています。性格に難がありますが……」


「天狗になっているわけね。そんな気がしたわ」


 人を斬りまくってエース気取りねぇ。エルラさんやティノちゃんの援護があってこそ、敵が倒せると思うのに。


「で、ケサクは人気があるの?」


「全然ありません。それどころか、あの人と組みたくないって言われています。裏で悪口を言われていますよ、あの人」


「あはは。やっぱり」


 ケサクの人気のなさを知って、思わず私は笑ってしまった。ティノちゃんは私の顔を見て、安堵の表情を見せた。


「よかった。モンスターを斬り倒す人だから情けがない人かと思っていましたけど、やっぱり人間なんですね」


「私は人間だよ。ただ、悪人に対しては容赦なく腕や足を斬り落とすけど」


 その言葉を聞き、ティノちゃんの顔の色は変わった。ティノちゃんを斬るとは言っていないのに。


「腕と足を斬り落とすんですか? ケサクは斬り殺すのに……」


「むやみやたらに人を斬り殺すのは裏ギルドとやってることが同じよ。それに、簡単に殺したら楽になっちゃうから、ああいう奴は生き地獄を見せないと。そっちの方がいいわ」


 と、私は人の命を奪わない理由を教えた。その言葉を聞き、ティノちゃんは納得した表情を見せた。それから私はティノちゃんと話を続けたが、しばらくしてティノちゃんは眠っていた。ギルドの戦士と言っても、やっぱりティノちゃんは子供だ。可愛い寝顔をしている。さて、私も寝よう。




 エクスたちは眠ったか。剣となった俺は眠ることができない。だから、今起きた光景を把握している。ウラガネの奴が起き上がり、進入禁止エリアへ向かって行った。そのことに気付いたのか、ケサクと言う半人前の剣士が起き上がってその後を追いかけた。エクスにこのことを伝えたいが……今、この状況でエクスたちを動かすのはまずい。エクスは進入禁止エリアに入ったことがないから、そこがどうなっているか分からないだろう。それに、今は夜中だ。暗くて周囲が分からない。非常にまずいな、この状況。

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