第6話 危険な森の歩き方


 大きな町、ミゲロールのギルドの戦士を引き連れた悪名高い政治家、ウラガネ・ホシーナがファストの村にやって来た。ウラガネは別荘を建てるため、ファストの村の周辺を調べるためにやって来たと言っているが、多分それは嘘だ。自然に癒されるために自然を壊して別荘を作るだなんて矛盾している。だが、奴はギルドに依頼をしてきた立場。ギルドの戦士の私があれこれ追及する立場ではない。


(エクス、いろいろと思う所があるが、今は奴を追及するタイミングじゃない。耐えるんだ。仕事が終わった後で奴に話を聞けばいい)


 と、ヴァーギンさんがこう言った。その通りだ。とにかく耐えよう。




 ギルドでの会話を終えた後、ウラガネはすぐに外に行きたいと言ったので、私はケサクたちと共に外へ向かった。


「心配してくださいエクスさん。モンスター共は私が斬り捨てますので」


 と、ケサクは私にこう言った。この人が持つ剣は立派な装飾をしているが、鞘に収まっているから刃がどんな状態か分からない。それと、この人の軽鎧は傷一つなく、安っぽいキラキラした装飾がいくつも付いている。見た目はおしゃれだが、性能的には微妙そうだ。エルラさんとティノちゃんも質がいいローブを羽織っているが、彼女らは魔法使い。体力よりも魔力はあるが、重い鎧を身に着けることはできない。そのため、鎧よりも軽くてそれなりに防御力があり、動きやすいローブを羽織っているのだろう。その一方、ウラガネは森を歩くには適していない服を着ている。森を歩くのに、金持ちが身に着けていそうな服や靴で来るバカがどこにいるのだろう。あ、ここにいるか。


「うわっ! また沼に足を突っ込んでしまった! おい誰か、タオルを持ってこい! この靴、かなり高かったんだぞ!」


 はぁ、見栄を張っていい靴を張るからこうなるのよ。タオルぐらい自分で持ってくればいいのに。私は少々苛立ちながら、ウラガネに近付いた。


「これはハイキングではありません。ファストの村の周辺には危険なモンスターも生息しています。あなたがすぐに行きたいというからすぐに出ましたけど、本来なら時間をかけて装備を準備した方がいいんです。焦ったからこうなったって思ってください」


 私は呆れながらこう言った。ウラガネは文句のある表情をしていたけど、私の主張が正論だと察して何も言えなかった。まぁ、仮に奴が何か言っても私は正論をぶつける余裕はある。そんな中、ケサクがなれなれしく私の肩を抱き寄せた。


「ねぇ、エクスちゃんって言ったっけ? 君、魅力的だね。彼氏とかいるの?」


 はぁ、こいつはこいつでこんな状況でナンパをするのか。私は再び呆れてため息を吐いた。


「いませんし、あなたのような頭が悪そうなナルシストとは付き合いません。エロ雑誌でも買って部屋に引きこもってください」


 私は冷たくこう言った。ケサクは驚いた表情をしてこの場で固まった。あの二人はこの様子を見て少し笑っていた。どうやら、ケサクとウラガネは相当嫌われているのだろう。まぁ、この様子じゃあ嫌われるのも当然か。




「はぁ、少し休もう! 歩き疲れた!」


 と、しばらく歩いたところでウラガネが大声でこう言った。村から出て一時間も経っていない。ひょろひょろとした体形だから、体力がないのだろう。だが、ケサクたちも歩きなれない森の中を歩いたせいで、体力を失っている。この状態で歩いたら危険だ。


「では少し休憩しましょう」


 私はそう言って近くの丸太に座った。ケサクはあぐらをかき、エルラさんとティノちゃんもその場で座った。だが、ウラガネは背中のリュックからシートを取り出し、地面に引いて座った。ズボンを汚したくないのだろう。


「はぁぁぁ……本当にこの周辺にあるのか?」


 ウラガネは水筒の中を一口飲んでこう呟いた。どうやら、この周辺に何かがあり、それを手にするのが奴の本当の目的なのだろう。


(エクス、この森の中に何があるのだ?)


 と、ヴァーギンさんが聞いて来た。この森にはギルドの依頼でよく出入りしている。だが、森の一部区域は進入禁止と言われており、ギルドの関係者以外は絶対に入ってはいけない場所があるのだ。私はそのことをヴァーギンさんに伝えた。


(そうか……もしかしたら、奴はそこに用があるかもしれないな)


 進入禁止エリアに用があるのか。だけど、そこに何があるのか私は分からない。ギルドの戦士でも、そこに何があるのか伝わっていないのだ。確かに何があるのか気になるけど、上に言わないで入ったらややこしいことになるから止めておこう。


 そう思っていると、ティノちゃんが私の方をじっと見ていた。何か気になっているのかと思い、私はティノちゃんに近付いた。


「どうかしたの?」


「エクスさんはどうして三つの剣を持っているんですか?」


 どうやら、私が三つの剣を持っていることが疑問に思っているようだ。いつもはヴァーギンさんと市販の鋼の剣を使っているけど、今回は短めの剣も手にしている。


「この立派な剣は強敵用。この鋼の剣は弱いモンスターや悪人用。それと、この短い剣は森や洞窟の中で戦うために使うの」


「へぇ。念入りに準備をしているんだね。でも、俺みたいな一流は荷物を減らすため、剣は一つしか持たないよ」


 と、ケサクが話に割り込んで来た。自分で一流と言っているのかこいつは。自分で自分を一流と思っている奴に限って大した腕じゃない。私はそう思って呆れているが、そんな様子を知らないケサクは笑いながら話を続けた。


「本当の一流は俺みたいなことを言うんだよ。英雄って言われていたヴァーギンもすごいらしいけど、ド田舎の悪人に斬られて殺されるだなんて、所詮英雄なんて肩書だけだったってことさ」


 この言葉を聞き、私はイラッとした。だが、ここで手を出すわけにもいかない。冷静になろうとしたが、遠くの方で草が動く音を聞いた。


「構えて! 何かがこっちに来てるわ!」


 私の声を聞き、エルラさんとティノちゃんはすぐに立ち上がり、ウラガネは地面に倒れて慌て始めた。だが、ケサクは何もせず座っている。


「おいおい、何も来てないじゃないか。少しは気を緩ませなよ。なんなら、俺がマッサージして柔らかくしてあげるよ」


 このバカは何も気付いていない。ここは人の手が入った森ではない。厄介なモンスターが多数生息している森なのだ。私はバカに向かってすぐに立つように言ったが、その前に上から鋭い爪の猿がケサクに襲い掛かった。


「うわぁっ! 何だ、こいつら!」


 鋭い爪の猿、こいつらはカニバモンキー。鋭い爪で人を切り裂き、人をバラバラにして食べるという悪趣味を持った猿型のモンスター。こいつらのせいで何人もの人が命を落としている。


 カニバモンキーは態勢を崩したケサクに集まり、鋭い爪でケサクに攻撃を仕掛けていた。私は鋼の剣を持って近くにいるカニバモンキーの首を斬り落とし、二撃目で横にいたカニバモンキーの上半身を斬り落とした。


 あっという間に仲間の二匹が命を落としたことを察した他のカニバモンキーは、私が放つ殺意で私の存在に気付いた。仲間を殺したのはこいつだと理解したのか、奴らの狙いはケサクではなく、私に変わった。


「ヒッ……ヒェェェェェ……」


 ケサクの奴は近くで転がっているカニバモンキーの頭部と下半身と別れた上半身を見て恐ろしい物を見るような悲鳴を上げていた。これが一流の剣士なのかしら?


 おっと、そう思っているとカニバモンキーの攻撃が始まった。だが、私は半年間、この森を含む危険な場所で依頼をこなしつつ、同時に剣の腕を上げてきた。カニバモンキーも何匹も倒した。そのおかげで、カニバモンキーがどう動くかは全部理解できる。


「ハァッ!」


 私は声を上げながらカニバモンキーの群れを切り裂いていった。その結果、あっという間に奴らは私に斬られ、全滅した。


「ふぅ、怪我はないですか?」


 私は恐怖で動けないケサクを見てこう言った。だが、奴はまだ返事をする余裕がなく、立ち上がることもできなかった。一方で、エルラさんとティノちゃんも私の動きを見て驚きのあまり立ち止まっていた。うーん……有名な町のギルドの人たちって強いってイメージを持っていたけど、そうじゃないのかな?

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