第5話 やってきた政治家
ウラガネ・ホシーナ。テレビでたまーに名前を聞く。この名前が出ると決まって悪いニュースが流れる。税金を悪いことに使っているとかや、賄賂を受け取っているのではないかとか、選挙の時に不正をしているとかなどの話題だ。そんな悪名高い奴がどうしてこの田舎に来たのだろう。私はそう思いながらも、自分のことを優先に動いた。
ギルドのキッチンへ向かい、私はアブラズクシと言う暴れ牛のモンスターのステーキを注文した。たくさん動いた後だと、高たんぱくなお肉が食べたくなる。密猟者との戦いは簡単に終わったが、考えてみると短時間のうちに強い魔力や体力を使ったからお腹ペコペコだ。
「はーいエクス! アブラズクシのステーキだよー!」
と、キッチンのおばちゃんの声が聞こえた。私はすぐにステーキを取りに向かい、席に戻って食べ始めた。私がナイフとフォークを動かす中、おばちゃんは何かを思い出すかのように私に話しかけた。
「そうだ、今日テレビでたまに見る政治家さんがこのギルドに来たんだけど、エクスは何か聞いてる?」
帰って来た時に見かけたあの政治家のことだ。だけど、私は有名人が来るって話は聞いていない。首を振って返事をすると、おばちゃんは困惑しながらこう言った。
「そうなの。ギルドの戦士のエクスも知らなかったのね。ここだけの話なんだけど、あの政治家の態度がかなり悪いのよ。金と権力でブイブイ言わせてるって感じの男よ」
「そうですか。金と権力はあるけど、力はないってことですね。それじゃあひ弱なんだろうな」
「そうそう。身に着けているものは立派なんだけど、あの男の体はヒョロヒョロだったよ。政治家だからいい食べ物を食べてるはずなんだけど、あれだけヒョロヒョロじゃあ好き嫌いが多いんだろうね。贅沢だねぇ」
「ヒョロヒョロですか。まさか、木枯らしが吹いただけで飛ばされるぐらいヒョロヒョロなんですか?」
「もしかしたら飛ばされるかもね! アハハハハハ!」
おばちゃんは笑いながらこう言った。あれからウラガネって政治家の話で私たちは盛り上がった。
私は食事を終えてキッチンから出て行った。ギルドの廊下を歩いていると、ウラガネ・ホシーナと護衛らしき三人の人たちとすれ違った。
「こんばんは」
と、戦士の一人が丁寧に私に頭を下げた。戦士と言っても、私より年下の少女だ。その子が挨拶をした後、年上の女性が私に頭を下げて挨拶をした。だけど、もう一人のキザ風の男とウラガネ・ホシーナは下種な笑みで私を見ていた。ああいう男の笑みは何を考えているか分かる。
(エクス、あの男が下種なことを考えているだろうと思っていても、手を出すなよ)
おっと、ヴァーギンさんに止められた。うーん。まぁ仕方ない。根性が腐っていても一応は国の政治家。ここで手を出したら大変なことになる。そう思いながら、私は自室へ戻った。
翌朝。私は電話の鳴る音で目を覚ました。
「ふぁ~あ、もしもし?」
「エクスさん。朝早くから電話をしてすみません」
電話の相手はギルドの役員だ。私は欠伸をしながら返事をすると、役員は慌てながら話をした。
「政治家、ウラガネ・ホシーナさんがこの村に来ているのは知っていますよね?」
「昨日すれ違いました。あのスケベ野郎ですよね」
「思っていてもそんなことを言わないでくださいよ。とにかく、ウラガネ・ホシーナさんが村で強いギルドの戦士を呼んでくれと言っていまして……」
「強い戦士? それで私に白羽の矢が立ったんですか? 私より強い人がいると思いますけど」
「このギルドであなたより強い戦士はいませんよ。この半年であなたは誰よりも大きく成長しましたからね。それと、この周辺にも詳しいですし」
うーむ。どうやら強いってことと周辺に詳しいことで私があの政治家に関わる依頼をすることになったそうだ。他の依頼はあるけど、まぁモンスター退治だし、頼まれたことを優先しよう。
「分かりました。でも、今起きたばかりなので、支度をする時間をください」
「はい。すぐに来てください」
電話を終えた後、私はなるべく早く支度をしてギルドへ向かった。カウンターで話をすると、ウラガネ・ホシーナ一行は客間にいると伝えられ、すぐに客間に向かった。
「失礼します」
私は一言そう言って客間の扉を開けた。そこには昨日遭遇したウラガネ一行が座って待っていた。
「遅い! 一体いつまでこの私を待たせるのだ!」
はぁ、偉そうな態度だ。こいつ絶対異性から受けが悪いし、同性からも評判は悪いだろう。しかも臭い。香水をしているのだろう、花が変に混じりあった臭いがする。
「仕方ありませんよウラガネさん。レディーは支度に時間がかかるもんですから」
と、言いながらキザな戦士が私に近付いた。
「昨日、すれ違いましたね。僕はケサク・シュヴァルターナ。今後ともよろしく」
ケサクと言った戦士、腰に剣を携えているから多分剣士なのだろう。だが、剣士と言っても腕は細い。大樹の枝のようだ。このスケベ野郎は私の手に口づけをしようとしたため、私は急いで手を引っ込めた。うえー、汚いことをするなー。そんなことを思っていると、女性と少女が立ち上がった。
「私はミゲロールのギルドの戦士、魔法使いのエルラ・ホロロムルと言います。この子は見見習い魔法使いのティノ・オーダラビト。よろしくお願いします」
「よ……よろしくお願いしましゅ!」
エルラさんは丁寧にお辞儀をしたが、ティノちゃんは緊張しているのか、噛んだり慌てたりしていた。初めての依頼なのか、初めて遠出をしたのだろう。さて、相手方が挨拶をしたから私も挨拶をしないと。
「では私からも挨拶を。私はエクス・シルバハート。このファストの村のギルドの戦士をやっています」
「君の情報は聞いている。最近この村でモンスターを狩りまくり、悪人の手足をバサバサ斬っているやばい剣士がいるってね」
と、ウラガネはにやりと笑ってこう言った。外で私の噂が流れているのか。正直びっくり。それよりも、エルラさんが言っていたミゲロールの言葉に私は引っかかっていた。ミゲロールは大きな町で、この町に所属するギルドの戦士も優秀な人材ばかりだ。だが、どうしてこんな田舎に来たのだろう? まぁ、その辺はウラガネが話すか。
「では、依頼の話をしよう」
ウラガネは咳ばらいをして話を始めた。長くなりそうだ。私もソファーに座ろう。
「私がこんなド田舎に来たのは、別荘を建てたいからだ」
別荘? そんなことのためにここに来たのか。くだらない。私はため息を吐いたが、くだらないという私の気持ちを察したのだろう、ウラガネはもう一度咳ばらいをして話を続けた。
「確かに君のようなド田舎の戦士が別荘のために依頼をするって聞いたらあほらしいと思うだろう。だが、理由がある。私は本でこの地域の存在を知り、美しい自然に心を奪われた。だから、仕事で疲れた身と心をこの地で休ませたいと思ったから別荘を作ろうと思ったのだ」
矛盾している。美しい自然に心を奪われたと言っているが、別荘を作るとなるとその自然をぶち壊す行為につながる。こいつは嘘をついている。もう一つの目的があるのだろう。だが、他のギルドの戦士はどういった事情でこいつについて来ているか分からないけど、まぁ他の戦士がいる手前で騒動を起こすのは止めよう。
「だから頼む。安心で安全な場所を教えてくれ。そして、この地域に生息する危険なモンスターのことを私に教えてくれ! 本では書いていないことを私は知りたいのだ! 金は払う!」
そう言って、ウラガネはアタッシュケースを机の上に置いて開いた。ぎっしりと詰まっていたのか、中にあった札束が外に転がった。かなりの大金が詰め込まれているのだろう。ぱっと見で一千万は超えている。この額を見たら誰だって依頼を受けるだろう。そして、金さえあれば悪いことをしても黙ってくれる。多分この男はそう考えている。
「額に文句があるなら追加するぞ」
「いえ、これで十分です。あなたの依頼に答えます」
と、私は笑顔でこう言った。本当はこんな怪しい依頼を受けたくないが、この男が何を考えているか知りたい。もし、悪いことを企んでいたら斬ろう。
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