第4話 半年後のエクス
俺が剣となって生き返って半年が経過した。あの戦いから、エクスは剣士としての誇りを持ち、甘さを捨てることができた。だが、俺から見たらまだまだエクスは未熟者だ。誰だって最初は未熟だ。俺はこの半年間、エクスに剣士としての生き方や戦い方、自分が身に着けたことを全て教えた。最初、エクスは涙目をしながら俺の言う通りに戦ったりしていたが、この半年でエクスはかなり成長した。俺も剣士として生き始めた半年はひよっこと言われていた。だが、エクスは俺の予想を超える速度で成長していた。
今のエクスには敵に対しての甘さや情けはない。剣士として、ギルドの戦士として大切なものを守るために剣を振るう。悪人の命を奪わないという甘さはあるが、それはそれでいいと思う。俺のようにやたら無暗に命を奪うような剣士にはなってほしくない。剣となった今、俺ができるのはエクスのために剣となり、エクスのために知識を与えるだけだから。
ヴァーギンさんが剣となって私の元に落ちてきて半年が経過した。あれから私は変わったと皆から言われる。自分ではそうは思わないけど、皆から言われている以上、そうなのだと自分で思う。
私はファストの近くの森の中にいる。ギルドから違法な密猟者のグループが近くにいると連絡が入り、そいつらを討伐するために私が動いているのだ。本来なら一つの依頼に対して四人の戦士が向かうことになるのだが、今回は私一人で十分だと私自身とギルドで判断し、私一人で動いている。
依頼を始めて数時間後、私は木の上から密猟者グループの目的であるゲーミングバードを守っていた。ゲーミングバードは七色に光る羽を持つ変な鳥である。その羽は金持ち連中に人気があり、ゲーミングバードの羽を使ったコートやマフラーを身に着けている金持ちがテレビで映っていたりしていた。人気があるせいで、ゲーミングバードは頻繁に捕まえられ、そのせいで絶滅危惧種として指定されている。そんな中でも、ゲーミングバードの羽を使った衣服は人気で、金持ちが金を使って裏の世界の密猟者に頼んでゲーミングバードを狩っている状況なのだ。自分の欲のために貴重な生き物を殺すとは、信じられないことをする連中だ。謝っても腕の一つは斬り落とす。
ゲーミングバードを見つけて数時間後、私はひたすらゲーミングバードを見守っていた。しばらくすると、遠くからエンジン音が聞こえた。これは村へ向かう車じゃない、こっちへ向かってきている。徐々にエンジン音が大きくなる。私は望遠鏡を手にし、周囲を見回した。ランプは付いていないけど、明らかに大型の車の影が映った。
「さて、やりますか」
私は小さくそう言って鋼の剣を手にした。私は剣となったヴァーギンさんとは別に、もう一本市販で売られている鋼の剣を身に着けている。剣となったヴァーギンさんの切れ味は市販の剣よりはるかに上だ。だが、ヴァーギンさんに頼っていたらその剣だけで勝ててしまう。最強の剣士と言われるには、市販だろうが名剣だろうが、どんな剣を使っても敵に勝つということなのだ。と、ヴァーギンさんが言っていた。
私は静かに木から降り、草むらに隠れて車の様子を見ていた。しばらくすると、静かに車のドアが開き、ライフルを構えた四人の人物が車から降りた。見た限り、あいつらが今回目的の密猟者のグループだろう。ゲーミングバードを保護する団体だーとか言っても、ライフルを持っている以上説得力がない。
さて、敵を倒そう。そう思い、私は動いた。かなり敵に近付いたが、敵は私の存在に気付いていない。
「おい見ろよ、ゲーミングバードがあそこにいるぜ」
「一匹だけか、あれじゃあ全身の羽をむしっても、何十万の価値しかないな」
「ちゃんと血が出ないように始末しろよ。死体は確実に処分する」
「で、アイツの肉は食えるのか?」
「貧相な体だから肉はないらしい」
「じゃあ食えないというわけか。残念」
私に気付いていない密猟者のグループは呑気に話をしている。この隙に斬る。
斬ると判断した直後、私は近くにいる二人の足に向けて鋼の剣を振るった。素早く剣を振るったため、剣の刃は難なく敵の足を斬り落とした。
「なっ! ギャアアアアア!」
「グワアアアアア!」
足を斬られた密猟者は、斬って少し間をおいて悲鳴を上げた。すぐに斬られたという感覚が走らなかったのだろう。ゲーミングバードは密猟者の悲鳴を聞いて急いで逃げ、前にいた二人は急いで後ろを振り向いた。
「誰だ!」
「何だ、こいつ? いつの間に俺たちの後ろにいたんだ!」
この時、敵はようやく私の存在に気付いた。血の付いた鋼の剣を持っているのを見たのか、私を敵だと判断してライフルを構えようとした。しかし、そんな物が私に通用しない。私は素早く高く飛び上がり、敵の背後に回った。
「んなっ!」
私のジャンプ力を見て、敵は動揺したのだろう。立ったまま私を見ている。その隙に私は前にいる密猟者の背中を蹴り、横にいる密猟者の左肩を斬り落とした。
「グッギャアアアアア!」
左肩を斬り落とされた密猟者は悲鳴を上げ、その場で倒れた。
「グググ……クソが! よくもやりやがったな!」
蹴り倒した奴が立ち上がり、ナイフを持って私に襲い掛かろうとした。そんな小さなナイフが私に届くわけがない。私はため息を吐き、冷めた目でこう言った。
「かかって来なさいよ。無駄だと思うけど」
「ほざけ青二才がァァァァァ!」
私の言葉を聞き、怒り狂った密猟者は私に襲い掛かった。私は素早く鋼の剣を振るい、ナイフを持った密猟者の両手を斬り落とした。
「あ……ああ! うわあああああ!」
斬り落とされた手首を見て、密猟者は悲鳴を上げた。そんな中、最初に両足を斬り落とした密猟者が、倒れたままライフルを構えていた。このまま私を撃つつもりだろう。そんなことをさせるほど私は優しくない。
「死ねぇ! 両足を斬られた痛みを倍にして返してやる!」
と、密猟者は叫んでいた。この言葉を聞き、奴らがライフルを撃つタイミングを理解した。その前に、私は素早く両手を斬り落とした密猟者を盾にするように私の前に立たせた。この行動を見て、ライフルを構えた密猟者は動揺した。
「隙あり」
私は前にいる密猟者を蹴り倒し、ライフルを構えた密猟者に激突させた。その直後、ライフルの発砲音が響き、私が蹴り倒した密猟者の背中からライフル弾が貫通しながら飛び出した。痛々しい光景だが、こいつらは悪意を持ってここにやって来て、悪意を持って私に襲い掛かった。悪人に対し、かわいそうとかそういう情けの感情は生まれない。悪いことをしたらそれ相当の代償が返って来る。ヴァーギンさんも言っていたし、私のギルドの戦士たちもよく言っていた。
しばらくして、ライフルの発砲音が消えた。ライフルを発砲した密猟者は仲間を撃ってしまった罪悪感があるのか、口を開けてショックを受けた様子を見せていた。だが、敵のことなんてどうでもいい。私はこいつらを捕まえるためにここに来たんだから。
「あんたたちを捕まえます。大人しくしないと、この人のようになりますよ」
と、私は生き残った密猟者にこう言った。
依頼を終え、私は報酬金を受け取った。ライフル弾を受けた密猟者はその後死亡し、この村で身元不明のまま埋葬されることになった。自業自得と言ってもいいだろう。
とりあえず依頼は終わったし、食事をしてお風呂に入って寝よう。そう思っていたのだけれど、村の入口には見慣れない黒塗りの高級車が入ってきた。村の人たちは突如入って来た高級車を珍しい物を見るかのように見ていた。私も同じ気持ちで、どうしてこんな車がファストに来たのか気になった。そんな中、ヴァーギンさんが私にこう言った。
(あいつは政治家のウラガネ・ホシーナ。どうしてここへ?)
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