4話 人は揃った。さぁ、計画を進めよう

 何かが可笑しかった。


 転送が完了し、僕は言われた通りに初撃を防ぎ流れるがままに暴君とやらの首を落とした。そこまでは良いんだ。


 その後、何者か聞かれたからカッコつけたのに……


「私は冥。暴虐の徒から彼女を救う、ただのメイドだ」


……カッコつけたのに!!

 何で声が変わってるんだよぉおおおお!!!


 僕は心の中で悲しみの声を溢した。


『初回にしては良かったんじゃないかしら?』


 悲しみにしみじみ浸っていると、頭の中に聞き覚えのある声が響き渡った。声の主はお馴染みのクロムノーツである。


(クロムノーツ、何で声変えたの!?)


 僕は少し強めに言ってみる。するとクロムノーツはだってぇ、と声を縮こまらせて言った。


『だってあんなにイケボなのは、少し私の趣味と違うんだもん!!!!』


 縮こまらせたのは最初だけだった。中盤から終盤にかけて、耳が壊れるくらいの声量で彼女は逆ギレした。


 別にキレなくても良いのに……。


 それはそうと、結果的に僕は彼女の運命を変えることに成功した。


 暴君亡き今、この地に現れた謎の最強メイドに刃向かう愚か者なんている訳がない。僕は胸いっぱいの期待を込めて、暴君の背後へ目を移す。


「おい冗談はよしてくれ」


 刃向かう愚か者しかいなかった。


 彼らは僕へ一目散に駆け寄り、亡き主人の仇を取る為に目を充血させ、己の得物を力一杯振るった。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってぇええ」


 当然、こんな時の対処法なんて知らない。クロムノーツが指示を出してくれるまで、僕は逃げるしか生き延びる方法がないのだ。


 けど一人逃げるわけにはいかないのだ。


「ほら、行くよ!!」


「え?えぇええええ!?」


 僕は倒れていた彼女を抱き抱えると、自分が出せる最高速度で彼らの追っ手から逃亡した。


 しんどい。結構っっっっしんどい!!


 クロムノーツは何をやっているのか。彼女が早急に指示を出してくれないと、僕も彼女も命はない。


 最初にスピードを出しすぎたせいか、既に体力の半分は失われて息切れを起こし始めている。


(早く、早くしてくれ!クロムノーツ!!)


 僕にも限界が来た。


 だんだんと失速する僕の姿を好機と捉えたのか、愚か者共はスピードを上げてこちらに迫った。


『お待たせ!今から3数えるから、それに合わせて技名叫んで、あいつらに手突き出して!!』


(え!?)


 間一髪でクロムノーツから指示が入ったかと思えば、あと3秒耐えろとか言われた。まじでハードクエスト過ぎるだろ。


 それに技名とか、、、思いつかない。


 でも、やるしかない。


『…3』


 僕は最期の力を振り絞って戦場を駆け抜ける。


『…2』


 背後から、今にも僕を掴まんと手が迫る。


『…1』


 クイックターンを駆使して体を回転させ、愚か者共と目を合わせる。あわせて瞬時に、彼らに向けて右手を突き出した。


『…今っ!!!!』


 合図が出された。


「波──────ッ!!!!!」


 思いつかなかったなんて言えない。だから咄嗟に『波』単体を叫んだなんて言えない。


 しかし、想定外なことにクロムノーツが発動させた技の威力は凄まじく、戦場を削りながら愚か者共を一掃した。


 跡形もなく、なんならゴッソリ削れた地形を見て僕は思った。


 クロムノーツは怒らせないようにしようと。


「あ、あの……助けてくれて、ありがと」


 僕が心に誓っていると、抱き抱えていた彼女が突拍子もなく僕にお礼を言ってきた。


 女の子にお礼を言われる機会は少ないので、僕は何処かぎこちなく返事をする。


「いや、良いんだ。それより嫌じゃなかった?」


 何を聞いてんだ僕は。


「いえ……嫌な気は、しません」


「そう、なんだ?……じゃなくて!!そろそろ降ろすね」


 絶賛緊張中の僕は、ゆっくりと彼女を降ろす。


 彼女が立ち上がるのを確認すると、どっと体に疲れが込み上げてきた。


『お疲れ様。そして、ありがとう。冥ちゃん』


 良いタイミングでクロムノーツからの通信が入る。


(このタイミングで労うとか、反則ですよ)


 僕はとても気分が良くなった。


「あの……!」


 後ろから緊張気味な声が掛けられる。


「……はい?」


 僕も緊張しながら返す。


「私、カフィアって言います。魔王とか言われてますけど、本当は皆んなが笑顔でいられる世界を、作りたくて……」


 やっぱり良い子なんだ。クロムノーツが言っていた通り、この子が正規ルートで辿った死は、この子にあってはならなかったのだ。


 体力もないのに言葉を紡ぐ彼女に、僕は何で言ったら良いのか分からなかった。


 頑張ったね、なんて上から目線なことは言えない。ましてや、分かってるとも言えない。


 だから、こうしか言えなかった。


「大丈夫、僕は君の味方だ」


 安直な言葉。でも、僕は言われて安心する。


 それに声が、この一瞬だけ男に戻っていた。


「ありがとう、ございます。私、どうお礼をしたら良いか……」


 お礼、か。


 僕は言われるまで大変すぎて、本来の目的を半ば忘れかけていた。そうだ、言うなら今しかない。


「よければ、僕のメイドとして一緒にいてくれないかな……?」


 うぅ……めっちゃキモい。死にたい、土に潜りたい。誰も見ないで。本当に頼む。


 僕は羞恥心で焼き殺されそうになりながらも、彼女へ視線を移す。流石に引いてるよな、と思っていたのだが。


「私でよければ……末永く、お供させてください。ずっと、貴方の側で…この恩を返したいです」


 びっくりした。まさか了承されるとは思わなかった。けどそれよりも嬉しくて、笑顔で僕はお礼を返す。


「ありがとう。僕は冥、よろしくね」


「はい、よろしくお願いします!」


 色々あったが結果的に、僕はメイド第一号を集めることができた。名前はカフィア。


 僕はこれを機に、クロムノーツの手助けを得て、更なる最強メイドを仲間に加えるのだ!そう、息巻いていたら……。


「どーして、こうなっちゃったかな?」


 心底呆れた顔でクロムノーツが言う。


「あはは、はは。わかんない」


 結論から言おう。


 メイド軍団を結成するにあたり、僕は初期構成を2、3人にしていたのだ。これくらいが丁度いいと思ったし、統率も取れると考えた。


 まぁ、呆れられるのも無理はない。


 だって2、3人の予定が7人になったのだから。


 ちょーと、調子乗りすぎたかなぁ。


 その上、クロムノーツが呆れている原因の一つに、彼女たちの謎の合戦が度々開催されるというものがある。


 よく見ていれば、今もやっている。


「私が最初のメイドです。なので、私が冥様の専属メイドである権利を持ちます」


 とカフィア。彼女は異世界最強の剣士メイドだ。どうやらこの前のは緊張していた時の態度だったらしく、緊張がほぐれた今ではこうやって冷静に喋ってくれる。


「いいえ、納得できません!!私だって……私だって、冥様と一緒にいたいです!」


 と2人目のメイド──リミルアは意を唱える。彼女は異世界最強の魔法使いメイドである。多分、この軍団で一番健気な子である。


「あのさぁ、、、二人ともやめない?それ。冥ちゃんはどーせ、みんなの事大好きだから。重婚認められたら全員と結婚するから。…ね?」


 と3人目のメイド──シフェードは二人を宥めつつ、僕に視線を送った。彼女は異世界最強の策士メイドだ。この軍団で一番料理が上手い。


「まぁまぁ、皆さん落ち着いて。私は冥ちゃんのお姉さんメイド候補でも良いの。少しはお姉さん要素もあった方が良いと思うわ」


 と言っているのは4人目のメイド──フルール。彼女は異世界最強のバーサーカーメイドでありながら、この軍団一番のお姉さんである。


「貴方が一番場を乱していますよ、フルール。私は、お兄ちゃんと一緒にいたい。それだけ……妹として扱ってくれたら、嬉しいけど」


 場を見出している子パート2であり、5人目のメイド──レグ。彼女は異世界最強の後方支援メイドであり、僕の妹を名乗りたがっている。


「冥ちゃん、準備できたよ」


「冥ちゃん、冥ちゃん。準備できた」


 今僕に報告をしてくれたのは、6人目のメイドであるティリィと、7人目のメイドであるフィリィである。二人は世界最強の武器製作メイドだ。


「あぁ。ありがとう」


 僕がお礼を言うと、彼女たちはクロムノーツのような呆れた表情を浮かべた。


「まーたやってんの。まぁ、こればっかしは冥ちゃんが悪いよね。だって、私もフィリィも貴方に口説かれてここに来るのを選んだ訳だし」


 とティリィ。


「冥ちゃん、冥ちゃん。私はどんな時でも貴方に使えます!貴方がどんな屑になっても、どんなろくでなしになっても、私がお世話致します♪」


 とフィリィ。


 二人は双子なんだけど、どうも性格が全く似てないのだ。


 結構常識人な姉のティリィとは違い、妹のフィリィはなんか愛が重い。いや、嬉しいけどさ。


 こんな感じで楽しい軍団が完成した。


 ここまで長かったけど、僕の夢は、また一歩実現へと向かっている。最高だ!!


「はーい。メンバーが揃ったところで、計画の次の段階に進みまーす」


 幸せを噛み締めていると、クロムノーツが場を纏めてくれた。やっぱりことの運び方が上手いわ。


 みんなもクロムノーツとは仲が良くて、僕と彼女の指示はすんなり聞いてくれる。


 次の段階、やっぱり今の彼女たちに足りないものは一つしかない。まだ集まって一日経ってないからしょうがないけど。


「メイド軍団なのにメイド服着てないのは可笑しいので、今からメイド服作りますねー」


 きたぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!


 僕はみんなに見えないように、拳を強く握りしめるのだった。

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