2話 女装美男子が好きなカミサマ

「ようこそ、神界へ」


 僕は意識を取り戻して早々、目の前にスッと現れた謎の女にもてなされていた。


 最早テンプレートとも言える白一色の空間の中には、無造作に机と椅子が並べられており、しっかり茶まで出されている。


「初めまして。私はクロムノーツ、女装美男子が大好きな可愛い女神様さ」


 女──クロムノーツはなんの躊躇いもなく僕に素性を明かすと、次は僕の番だと言わんばかりに目を輝かせていた。


 あぁ、そうか。


 僕は彼女の言動を振り返り、自分の身体に目を移した。案の定、まだ女装メイド服姿だった。


 どうやら彼女は、自分の性癖の体現である僕のことを知りたいようだ。僕が美男子であるかはさて置いて。


 仕方ないので自己紹介をしよう。


「初めまして。僕は白冥────ッ!?」


 苗字を名乗り終え、名前を言おうとした刹那、僕の頭は強烈な痛みに襲われた。


 椅子に座っていた僕の体は崩れ落ち、白一色の床の上でのたうち回る。痛い、まじで痛い。


「え、え、え!!??どうしたの!?」


 急に倒れた僕に、すぐさまクロムノーツが駆けつける。彼女の顔は、焦りと不安に満ちているようだった。


「い、いえ……少し、いやだいぶ頭に痛みが」


 僕は痛みに耐えながら、クロムノーツに現状を伝える。彼女はうーんと唸りを上げて考えると、一つの結論を導き出した。


「多分ね、君が無茶な転生をしようとした代償に近いんだと思うよ」


 クロムノーツは静かに言い放つ。


 無茶な、転生……したわ。


「覚えてないかも知れないけど、君が自殺目的で電車の前に飛び降りた時、頭の打ちどころが悪かったの」


「打ちどころ…?」


 僕はある程度痛みが引いてきたので、自殺した直前の記憶を辿ってみる。でも実際、本当に直前の記憶は鮮明さに欠けていた。


 確実に覚えていたのは、電車の前に飛び出したという事実のみ。その後のことは何一つ覚えていない。


 一体全体、僕の身体に何があったのか。


 あ、聞く前に体起こそうっと。


「まず、君の体が電車に当たって吹き飛ばされるじゃない?その後にギャグ漫画方式で飛んでって、ほらポン、ポン、コテン…みたいな」


「はぁ……?」


 この人やたら喋り方というか説明が可愛いな。メイド服着させようかな。


 それより、僕そんな軽快なリズムで死んだの!?めっちゃ恥ずかしい。


「それで頭を何回も強打したせいで、顔面の原型は残っていない。というか確か、顔取れてた気が……見る?」


「見ませんよ」


 何を言い出すんだよ。自分の死体すら見たくないのに、なんでわざわざエグい死体見なくちゃならないんだよ。


「最初の方に話を戻すけど、結果的に君は転生をしようとして無茶な手段を選んだ。そして無事に【切符】を手にできたけど、軽い記憶障害という代償を得てしまった」


「なんか、すみませんでした」


「まぁ、私の仮説だけどね」


 僕は申し訳なさから、謎にクロムノーツへ謝罪をした。絶対に謝罪をすべき人は違うはずだが、謝らずにはいられなかった。


 彼女はいいの、と手をヒラヒラとさせて特に気にしていない様子を見せた。


「それより、そろそろ本題に入りましょう。そこ座って」


 クロムノーツは無造作に並べられた椅子の一つに腰掛け、僕に対面した椅子へ座るよう指示した。


 僕はゆっくりと立ち上がり、指定された場所へ座る。すると彼女は、和かな表情で話を始めた。


「まず本題に入る前に、貴方の名前が必要ですね。白冥さんと言うのは分かったけど、白冥って言い続けるのは何処か堅苦しいわ」


 確かに、と僕は納得する。


「それに……貴方にはこれからも女装してもらうから、もう少し可愛い方がいいわ」


 これには納得できない。


 なんで僕が女装を続けることが確定事項として進められているのか。まずまず、僕は死んでいるのだが。


 それとも、さっきクロムノーツが言っていた【切符】とやらに関係しているのだろうか。


 まぁ次期に分かるだろう。


「そうね……白冥、、、冥ちゃんで良いわ」


「……!?」


 ざっつぅ……えぇ、、、雑すぎない?


 突然飛び出た雑すぎるネーミングに、僕は驚きを隠せなかった。


 でも、まあ、なんと言うか、うん。これで我慢しておいた方が、良い気がした。


「じゃあ冥ちゃん、本題に入るんだけど……君にはこれから転生して、神を殺して貰いたいの」


 ああ、【切符】の答え出たわ。僕はどうやら、異世界に転生させて貰えるらしい。


 死ぬほど条件重いけど。まあ無条件で転生出来るほど、甘い世界はないよね。


「その対価として、君の願いを叶えてあげましょう。さぁ、何か願いは?」


 え、最高じゃん。死ぬほど条件重いとか思って申し訳ありませんでした。


 僕は心の中で謝罪した。


「どんな些細な願いから、大規模な願いまで。貴方の望みは一度だけ叶えられるわ」


 一度だけ。その条件下で僕が言うべき最強の選択肢はただ一つ。


「最強のメイド軍団を結成したい」


 僕は声高らかに言うのだった。

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