灰色ちゃんがいない

「それより、友だちはどうしたんだい? 今日は、3にんじゃないんだね」


 歌うたいの猫に言われて、ふたりはようやく灰色の仔猫がいないことに気が付きました。


「あれ? 灰色ちゃんがいないよ」

「どこ行っちゃたんだろ」


 同じ舟に乗って虹の橋に渡って来たこともあって、仔猫たちは、たもとの街に住むようになってからも大の仲良しでした。歌うたいの猫に会いに来るときは、いつも3にんいっしょでした。それなのに、今日に限って、灰色の仔猫がいないのです。


 歌うたいの猫は心配になりました。灰色の仔猫は他のふたりと違って地上にいたとき、安心できるおうちがなかったのです。雪の日も嵐の日も、ずっとお外でおなかをすかせて暮らしていました。地上では危ないことや怖いことばかりだった彼の元には雪のオルゴールが届かなかったのでしょう。それで、雪だるまに大はしゃぎのふたりを見てつらくなって姿をくらませたのではないかと、歌うたいの猫は心配だったのです。


 でも、歌うたいの猫の心配を打ち消すように、ふたりは言いました。


「ちがうよ、歌うたいの猫さん。灰色ちゃんにも、ちゃんと雪だるまは降ってきたよ」

「歌うたいの猫さんに見せようって、みんなで雪だるまを持って時計塔までいっしょに来たもの」

「白ちゃん、これから灰色ちゃんを探しに行こうか」

「うん、行こう、黒ちゃん」


 ふたりは街に戻ろうとしましたが、すぐに時計塔まで引き返して来ました。


「歌うたいの猫さん、ぼくの雪だるま、あずかってくれる?」

「あたしのもお願い」


 歌うたいの猫は驚いて、首を横に振りました。

「そんな大切なもの、あずかれないよ。壊しでもしたら、どうするのさ」


「なんで? どうせ溶けちゃうんでしょ」

「もう、みんな覚えちゃったし。だいじょうぶ」


 ためらっている歌うたいの猫に、ふたりは押し付けるように雪だるまを渡すと、灰色の仔猫を探しに街の中に走って行きました。



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