オルゴール

「わぁ! すごい、すごい!」

「雪だるまは冷たいのに、お耳の中はあったかい!」


 歌うたいの猫は大興奮の仔猫たちを見て、また悲しそうな顔になりました。でも、仔猫たちは雪だるまに夢中で、それには気付きませんでした。




 なぜ仔猫たちの耳の中があたたかいかというと、地上からの調べがオルゴールのように繰り返し聞こえてくるからです。


 一年に一度、虹の橋の街に雪が降る日には、地上の涙が凍って雪のオルゴールの便たよりとなり、それぞれの元に届きました。雪だるまは冷たくても、地上からの調べは虹の橋の住民たちの心と体をとてもあたたかくしてくれました。




 歌うたいの猫は仔猫たちに言いました。

「雪だるまが溶けちゃう前に、オルゴールの調べを覚えておくといいよ。雪のオルゴールは、自分だけのものなんだ。だから、他のひとには聞こえない。でもね、覚えていれば歌って、みんなに聞かせてあげることができるし、みんなも歌ってくれれば聞くことができるからね」


「なあ~んだ、やっぱり、雪だるま、溶けちゃうんだ」

「だったら、あたし、溶けないように冷たいところに隠しておこう。あっ、そうだ! 向こうの街の雪豹さんの冷蔵庫に入れてもらおう!」


「ダメだよ。そんなことしたら、雪だるまが地上に戻れないよ。地上に戻れないと、雪だるまは新しい調べを次の年に持って来られなくなる」


「えっ? そうなの」

「だったら、早く、覚えなきゃ」


 降り続く雪の中、雪まみれになった黒い仔猫が白い仔猫と見分けがつかなくなるまで、ふたりは雪だるまを耳に押し当て、オルゴールを繰り返し聞いていました。



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