星屑

 ある朝のことです。

 雉白もようの猫が時計塔まで来てみると、いつもとようすが違っています。時計塔の下一面に、光を失った星屑が無数に散らばっているのです。猫は嫌な予感がして時計塔を見上げました。


「—— あっ!」


 嫌な予感は的中していました。時計塔のてっぺんから、舟の発着を知らせる鐘がなくなっていたのです。猫はすぐには信じられず、何度も場所を変えて時計塔を見上げました。でも、いくら見直しても、鐘はどこにもありません。



 街の住民たちにとって、鐘はなくてはならないものでした。

 鐘の音は、地上に残してきた懐かしいひとたちを思い起こさせ、虹の橋に到着してからどれだけの月日が過ぎたのかをはかしるべでもあったのです。住民たちの鐘の音に寄せる思いは祈りにも似て、とても大切でかけがえのないものでした。



 足元に広がる光をなくした無数の星屑が、どうやら鐘の残骸のようです。古びた鐘はついに高い塔から落ちて、砕け散ってしまったのです。



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