第4話 青色
「落としちゃるー!」
「ぎゃー!!!」
ふざけていたあの日。何もその先のことなんて考えずに。
こんな日々がずっと続くんだと思いながら。
こんな日々をずっと続けていくんだと思いながら。
「海に来たから落とすのがセオリーとか、本気で思ってるの?」
少女にそう言われて、
「それが俺の夢だったんだって」
と少年は悪びれる風もなく言った。
「いやいやいや、普通に危ないから」
もう一人の少年が、突っ込んだ。
「そうよ、危ないのよ。私がもしもの場合になったら、どうするつもりなのよ?!」
と少女は仁王立ちで怒っていた。
「何もなかったからいいじゃねえか」
少年がボソリと呟く。正座をさせられているから、もう足が痺れていた。
「なーんてーいったーのかなー?このお口かなー?」
少女が少年の口をつねった。
「いひゃいいひゃいいひゃい……」
少年が抗議の声をあげると、
「まあまあ、もうその辺にしておこう?」
と別の少年がストップをかけた。
「うーん……セイがそう言うなら」
少女はそう言って、正座していた少年を解放した。
「だからって、次したらただじゃおかないから」
そう付け加えるのを忘れずに。
そんな少女の様子に、
「おっかねーの。だから嫁の貰い手が無いんだよ、てめえは」
と少年はボソリと誰にともなく言った。
歩き出していた少女は、ピタリと足を止めて少年の方に振り向き、
「ソーウー?!聞こえているのよ?私、聞こえているのよ?」
と仁王立ちになった。
今にも少年に掴み掛らんばかりに、少女の後ろには仁王像が見えた。
そこに、少女の肩を掴みながら、
「どーどー。ソウもあんまり憎まれ口叩かないの。ミオももう怒らないの。そんなに怒っちゃ、俺嫌いになっちゃうよ?」
と言って、少女の頬っぺたにキスをして。
そのことに少年は真っ赤になり、少女は大人しくなった。
「え?え?え?」
少年は事の次第が上手く飲み込めないのか、二人を指差して口を大きく開けていた。それに対して、セイと呼ばれた少年は、ニコリと少女を自分の方に引き寄せて、勝ち誇った顔を携えて、
「俺の彼女になったから、ミオ。あんまり虐めると、俺が許さないからね」
と。
正座少年は、その場で驚きのあまり倒れた。
それから月日は流れた。
海に3人で行くことも無くなって。
他の場所に遊びに行くことも無くなって。
「なーに、格好つけてたんだかよ」
一人の青年が、一つの墓石に向かって話しかける。
「俺がミオを幸せにするんじゃなかったのかよ」
隣に女性が立っていた。何も言わずに、少し苦しそうな顔をしながら。
「お前がミオ幸せにしなきゃ、誰が幸せにするんだよ」
ホントによーと頭をガシガシさせて。
女性は青年の腕を取った。それを感じて、青年はチラリと女性の方を見た。
「セイ……俺がミオを幸せにするからよ。お前よりもうんと幸せにしてやる」
その言葉に女性は、青年の方に体を預けた。頬には一筋の涙。
「だから・・・安心して休んどけ」
青年の頬にも涙が一(ひと)滴(しずく)流れた。
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