第3話 空色



寝転がって僕は空を見ていた。

下は芝生だから、痛いこともない。

風が気持ちいいなあーなんて思い耽っていたら、兄が上に乗っかってきた。


「おい!テツ。ボーとしてないで、遊ぶぞ!」


と至近距離で言われた。

近い近いと思いながらも、


「いきなりかよ、兄ちゃん」


と苦笑いで答える。


「いきなりでもなんでも、遊ぶぞ!」


とむりやり手を引っ張られる。腕がもげるーー!と思っていたら、上半身を起こしたところで、勢いよく投げられた。

兄弟揃って柔道を習っていて、その技をかけられたと思ったのは投げられた後だった。


「イッテエエエエエエエ」


そう叫ぶと、


「ボーとしていたテツが悪い。テツが鬼だからな!10数えろよ」


と言って兄と柔道仲間数人が、笑いながら駆けていった。


「これも見越してかよ……」


イタタと言いながら、上半身を起き上がらせる。

10以上体の痛みが引くには、時間を要するななんて僕は考えた。

昔から1つ年上の兄には敵わなかった。

何をするにしても、僕の前には兄がいて、兄に勝てたことがなかったからだ。

柔道だって、兄の方が何倍も強い。

兄が楽しそうにしているから、兄弟一緒にさせた方が良いという理由なのか本当のところは分からないけれど、母親に連れてこられた。


「テツはちょっと引っ込み思案過ぎるところがあるから。お兄ちゃんのコウを見習いなさい」


と言われたけれど、一向に僕は上達出来ずにいる。


なんとか背中の痛みが引いて、兄たちを探し始めた。

公園の中だから、所々に大きな遊具とかが並んでいて、そことかに隠れることは簡単だけど、見つかりやすいという欠点もある。


「ツトムみっけ!」


そう言って一人見つけた。

見つけられたツトムは、


「ちえーー」


と言って、ふてぶてしく出てきた。

俺はもう一つ見当をつけていた場所に向かって歩いた。


「トトみっけ!」

「クッソー」


そう言ってトトも渋々出てきた。

テツはすぐに見つけるから面白くねえよーと、毎回毎回ご丁寧に似通った場所に隠れるやつらが後ろでぼやいた。


「僕だって、そんなすぐには見つけてないよ」


そう言うと、


「いいや、テツは見つけるのが早い!」


と二人から抗議を受けた。だから僕はそれを流して、後の2人を探すことに決めた。

兄は隠れるのも上手い。

何度となく僕は降参!と言ったことがある。

見つけた他の奴に手伝ってもらっても、無理だった。

その兄の親友であるカケルも隠れるのが上手いし、見つけるのも上手い。

僕が見つけられない兄を、いとも簡単に見つけてしまう。


「見つからないなあーー」


公園を隈なく探したつもりでも、中々二人を見つけることが出来ないでいた。

公園内の時計を見ると、かくれんぼが始まってから30分は経っていた。

1時間以内には見つけないと、ゲームは終了する。


「あと30分で見つけられるかなあ?」


と僕は首を傾げた。


時刻は刻一刻と迫ってきた。

そんな時僕の目の前に、タコの山が飛び込んできた。

四方八方に滑り台が伸びている遊具の一つだ。

そのてっぺんに登れば、公園内が見渡せるだろうと僕は考えて、タコの山に向かって一目散に走った。

時間が足りないともどかしい気持ちになって、階段を登る足がもつれそうになった。

なんとかてっぺんに立って、公園内を可能な限りグルリと見渡してみた。

すると今まで見えていなかった場所までも、見えた。

いつも見つけにくい兄の姿とカケルの姿も、はっきりと僕の目に入ってきた。


「見つけた!」


急いで目の前のすべり台を滑り降りて、僕は見つけた場所に走った。


「兄ちゃん、カケルみーけっ!!!」


と指差して今までで一番大きい声を出した。

すぐには何も起こらなかったが、次第にモソリ、モソリと二か所から動きがあって、兄とカケルが顔を出した。


「……見つかったか」

「今回が一番早かったね」

「しゃーねえなあ」


と交互にブツクサと言いながら、二人は隠れていた場所から出てきた。

僕はそんな二人の姿を見て、誇らしくなった。

やっと二人を見つけることが出来た自分に、すごく満足した。


「じゃあ、次は一番はじめに見つけられたツトムが鬼な」


と兄が命令して、2回目のかくれんぼが始まった。

僕は満足した気持ちで、澄み渡った空の下駆けた。


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