第2話 黄色

後ろから後光が差したみたいに、その人を照らし出した。

眩しかったはずなのに、私はそれを神々しいと思った。

眩しいとは一度も感じなかった。

今から思い返してみたら、眩しかったはずなのに。

サングラスかけていたっけ?って疑問に思ったくらいに。


彼と会ったのは、まだ桜が残っている時だった。

葉桜って言われた方が納得するぐらいの時だったけれど。所々に、申し訳なさ程度に桜が残っていた。


「まだ咲いているんですね」


って隣から低い声がしたから、私が振り返って、


「え?」


って言ったのが始まりで。


「知り合いと間違えました」


って貴方が言った言葉が印象的だった。その知り合いって男?って私は自分が誰に間違われたのか、少しだけ気になった。


サークル勧誘の時期に私は乗り遅れてしまった。

別段入りたい部活もサークルも無かったから良かったんだけど、だけど周りの子は少し高揚した感じで毎日話し合っているから、少しだけほんの少しだけ羨ましかった。


「良かったらどうですか?」


だから貴方が私を誘ってくれた時、本当は本当はすごく嬉しかったの。

でも、私はそう悟られるのが恥ずかしくて、


「……分かりました」


なんて興味ないフリをしてしまった。すごく子供だった。

終始ムッツリした態度だった。今なら反省している。正直に楽しめばよかった。

本当に、楽しめばよかった。


「山に登るんですか?」


その時に貴方が入っているサークルの概要を知った。


「そ。山から見る朝日は、格別にキレイだよ?」


そう言っていた貴方の顔の方が、キラキラと私には見えた。


「一回お試しで登ってみようよ?」


他の部員の人にも誘われて、私は近くの山への登山に参加した。

本当のことを言うと、山に登るのなんかそんなに興味はなかったの。

でも、そんなに貴方たちがキラキラした顔で喋るから、どんなものなのか見たくなった。

そんなに山に登るって素敵なことだったっけ?って思った。

私が持っている山のイメージは、小学校の時の遠足のただただ、しんどいだけの記憶だったから。


正直、登っている時はしんどかった。

そこまで高い山じゃないからって言われたけれど、それでも早起きで、結構な重装備で。


「何があってからじゃ遅いからね」


それが口癖だった。

どんな場所だろうと、油断は禁物。常に山に敬意を払って。

今じゃそらで言えるくらいに覚えちゃったよ?


「もうすぐ朝日が昇るよ」


そう耳元で言われて、違う動悸がした。


「ほら、もっとこっちに来て」


見ると本格的なカメラを構えた人もいた。

普通に飲み物を携えて、談笑している人もいた。

そうこうしている内に、目の前が明るくなって、段々ゆっくりとゆっくりとスローモーションで太陽が昇ってきた。

サンサンと降り注ぐとか、キラキラするとか色々形容した言い方を今まで聞いてきたけれど、そのどれもが正解で、そのどれもが私の気持ちにピッタリ合わなかった。


「どう?すごいでしょ?」


そう言ってきた貴方の笑顔は、何よりもキラキラしていた。


「はい」


貴方に対してなのか、朝日に対してなのか、私は呆然とそう答えていた。


その後他の山にも登った。

あの日本で有名な富士山に登った時は、正直言って何を自分はしているんだろう?って途中で思った。なんで私こんな事しているんだろう?って。

それも山頂に着いた時には吹っ飛んだけれど。

隣で満足そうに笑っている貴方の顔を見た瞬間に、ね。

何度も何度も、貴方の隣で綺麗な朝日を見た。


「もうこれで登るのは最後だ」


貴方の最後の登頂。まだ薄暗い夜明け前。もうすぐ登ってくるのだろう朝日の方向をバッグにして、貴方は私を見つめた。いや、私が貴方を見つめたのかな?


「お疲れ様」


小さく、貴方だけに聞こえるように言った。すると、


「家に帰るまで、その言葉は置いておいてよ」


と貴方は、はにかんだ。

家に帰るまでが、登山だよと。いつ話してくれたんだっけ?

そんなことを考えていたら、朝日が昇ってきてあなたを照らし出した。

本当は一瞬だったのかもしれない。でも、私にはスローモーションのように見えた。

ゆっくりと下から貴方を照らしていって、最後にすっぽりと貴方を包んだ。

その時、私は神々しいと思った。


「綺麗」


貴方には私の言葉が、朝日がって解釈されたんだと思う。

でも私は貴方に向かって、言ったんだよ。

綺麗って。


「本当だね。今までで一番キレイだと、僕も思うよ」


って。

私はその言葉を正さなかった。別に貴方に伝わっていなくてもいいと思ったの。

それで良いって思ったの。


今年もまたあの季節が来た。

貴方が私を見つけた季節が。

私も貴方みたいに、私のような子を見つけて、朝日の素晴らしさを伝えようと思うよ。


もう一度貴方と一緒に朝日を見たいって思いながら。

元気にしていますか?



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