色物語

第1話 紅色

その子は赤毛だった。真っ赤に染まったかの様に、紅かった。

夕焼け空に一番映えた。


少女が僕の家に来たのは、5番目ぐらいだったらしい。

両親が不慮の事故で死んで、その後施設に入れようにも、入れた施設先で虐めに会い、親戚の家を転々としていた。

1番目は父親の弟夫婦の家に引き取られたが、そこの子供たちと仲違いをしたらしい。

そんな風にして他の親戚の家に行くも、行く先々の家で厄介払いに遭った。

あまり近くない方が良いのかもしれない、とか言う理由で母親の祖母同士が兄弟だったというある意味他人に近い僕の家族が、次の候補地として選ばれた。


少女の両親、特に母親の方の父親は、莫大な資産家だった。その関係から親戚連中は多い。本当に親戚なのか、血がつながっているのか?と疑いたくなる人間もいる程だ。

そしてなんの幸か不幸か、少女にはその莫大な遺産が転がり込むという状況になっていた。

それも相まって、親戚中では少女を養女にしようと、血で血を争うかのような論争が繰り広げられた。

少女には用はないが、少女の後ろにあるお金には用があるといった具合で。

幸い僕の家は、両親がすでに自分たちで成功していて、そこまでお金に執着していなかった。それも選ばれた所以かもしれない。


少女は僕の家に来た当初は、すごく怯えていた。大人しいのかと思いきや、今までの信じきれないぐらいの仕打ちに、言葉を失ったようである。


「今日から一緒に暮らすからね」


必要最小限の紹介を、互いにされた。


「……散歩行く?」


それは僕なりの沈黙を破りたかった気持ちからだった。

少女はコクリと頷いた。

外を歩けば、少女の髪の毛を見た子供たちが騒ぎ出し、親はコソコソと話し出した。

話すならばもっと堂々としたらいいのに、何気に僕が視線を送ると、ぎこちない笑顔を向けて、そそくさとその場を後にした。

少女は外を歩いていても、僕の後ろに隠れるようにして歩いた。

その姿があまりにもいじらしくて、僕はさっさと自分の秘密基地に連れて行った。

そこは植物が茂っていて、外からではあまり見つからないような場所だった。

少しだけ坂道を歩くと、視界がひらける場所があって、僕はそこでボーとするのが好きだった。


「うわあああ」


少女がそこを始めて観た時、そう小さく感嘆の声をあげた。


「気に入った?」


そう聞くと、静かにコクリと頷いた。そのことに僕は満足した。そして、夕日に照らされた少女の髪の毛が、とても綺麗だと一人思っていた。


それから少女は、しばらくの間僕の家にいた。

僕は少女を気に入って、よく一緒に遊んだ。

少女も僕のことを本当の兄のように慕ってくれた。

このままこの家の子供になるのかな?なんて甘いことを僕は考えていた。

そんなこと、叶うはずもないのに。

その頃の僕は甘ちゃんだった。何も知らないガキだった。


少女はすぐに、親戚の誰かが引き取りに来た。

それは有無を言わさない態度と処置で、僕たちは何も言えなかった。

静かに、僕たちはまた他人となった。

静かに、僕たちは引き離された。


それから数十年後。

僕は今から、少女を迎えに行く。

今はもう立派な大人の女性になった少女を。

僕も社会で揉まれて、少しばかり力をつけた。

自分の力で、次は少女を守れるように。

あの綺麗な赤毛の女の子を、次は離さないように。




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