第2話

 荷台の子猫もぺしゃんこになって、涙が出そうだったが、私は涙が出ない代わりに笑うことが出来なくなった。


 革靴を舐めている静子は、時折「ニャー」といって私の顔を見上げた。

 私はなんだか思い詰めていたのだろうか?

 雑誌を全部読んでしまっていた。

 コンビニの店員がこちらをチラチラと見ていた。


 そうだ。

 買わなければ。


 性質の悪い立ち読みだけの客だと思われてしまう。

 私は雑誌を持って、レジへ行くと店員さんは微笑んだ。

 私は微笑みを返そうとしたが、そういえば出来ないんだなと頭の片隅で気が付くと、頭を下げていた。


 店を出ると、外はまだ雨が降っていた。

 西野くんは傘をさして私が出るのを待ってくれていた。


「その子猫。賢そうだね。弘子が飼っているの?」


 西野くんは、明るく言った。

 私は妹の顔を思い出して、こう答えた。


「妹が飼っていたの」


「へえ」


 西野くんは屈んで静子の頭を撫でたり、首の下をこちょこちょしたりした。


「さあ、傘に入って一緒に帰ろうよ」


 西野くんは私と子猫を傘に入れてくれた。

 柔道部の西野くんは、私と妹の幼馴染だ。

 角にある緑色の家に住んでいる。

 いつもは下校時には出会わなかった。部活が忙しくてと言っていた。登校には度々会うこともあったが、妹が死んでからは一緒に帰るのは初めてだった。


「その猫の名前は?」


「静子」


「よっぽど可愛かったんだな。自分の名前をつけるなんて」


 そういえば、妹はこの子猫の名をなんて呼んでいたのだろう?


 私は知らない。


 雨が大降りとなりだし、交差点に差し掛かった。

 私と西野くんは、青信号を見上げると点滅しているので急いで横断歩道を渡った。

 その時、普通自動車が交差点に猛スピードで進入してきた。

 急ブレーキのけたたましい音を発し減速したが、私たちを轢くには十分なスピードだった。

 子猫が「シャー」と鳴いていきなり普通自動車目指して走り出した。



 

 気が付くと、大きな衝撃音で止まった普通自動車のボンネットとフロントガラスにはぺしゃんこになったスクーターの跡がクッキリと浮かんでいた。

 西野くんは腰を抜かしていたが、私はこの不思議なことに泣きながら笑っていた。

 

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