オトコたちの搾取
「到着、しました……」
「ありがとうございます」
工事用車両に同乗していた岸は運転手の高遠や元中を置き残し、とっとと出てしまう。工事のノウハウなど全く持たない人間がだ。
後からやって来た隊長の刈谷ともう一人の部下である佐藤に向かって幾度目かのため息を吐きながら、口をとがらせる。
この場にいるのはたった四人。
いやそんな事はどうでもいい。
四人してあまりにも動きが鈍い。
「それでは給料など出せませんよ!」
「わかってはいるんですが……」
「あなたたちは公務員なのですから」
「そうですね……」
もしかして本当に忘れているかもしれないと思って話を振ってやると、本当に忘れていましたと言わんばかりの反応をして来る。
ただでさえ公務員と言う存在は風当たりが強い。市民たちが必死になって払いたくもない税金を払っているのに、その税金で食っていると言うだけでいいご身分扱いされやすい。
「あなたたちの働きが市民を支えているのです」
「では始めます」
「話を聞いているのですか!」
「ですから聞いている上で!」
「わかりました、ならよろしいのですが……」
だと言うのにこちらの言葉にまるで耳を貸す気配がない。高遠や元中だけでなく、刈谷や佐藤も全く変わらない。視察と言う名目でやって来た岸がうざったいのはわかるが、それにしてもずいぶんと粗野だ。
「ずいぶんとオトコらしい事ですね」
「はい…………」
少しばかり口をとがらせて痛点を突いてやったはずなのに、四人とも動きが鈍い。
この言葉の重さがわからないはずなどないのに、なぜなのか。
反発するどころかあーそうですねとでも言いたげに動き、オギョーギのよろしいお仕事を始めようとしている。
いら立ちをぶつけるように足を踏み鳴らしまくるが、全く誰も踊ろうとしない。まだ朝の九時だと言うのにだ。元中に至っては車の中で眠りこけており、やる気が全く感じられない。いつもこんななのかと高遠に問い詰めると首を縦に振られた。
「ならもう私は何も言いません、いつも通りの姿を見せて下さい」
とか言えればどんなに気が楽だろうか、そんな事をしていては自分がここに来た意味などない。
真女性党町所属の議会議員として、折り目正しくなければいけない。この役目に、与党も野党もない。
(少しでも気を抜けば、外の連中は噛み付いて来る。それこそ一日たりとも隙を見せてはいけない)
別にこの町の情報が漏れていないとか思ってはいない。
何をトチ狂ったか外に出て行ったガンギマリ共が言いたい放題言いくさしているだろうが、所詮は楽園から追放されたような人間の言葉だ。耳を傾けるはずもないし、傾けた所でどうせそんな人間の質は知れているのだから。
岸は今日の自分の役目を誰よりも分かっていたつもりだった。
「それにしても、車通りも少ないのに荒れているのですね」
「そうですね…」
とにかく仕事を見届けねばとばかりに目線を移すと、道路が荒れていた。車が走れない訳ではないが、少しでもハンドル捌きを誤ればすぐさま事故を起こしそうなほどになっている。車通りが少ないからまだ助かっているとも言えるが、いつ何時大事故が起きらないとも限らない状態だった。
アスファルト舗装の寿命は、おおむね十年と言われている。この道路を最初に整備したのは二十幾年前、この町を作ったオトコたちである。そしてその後は、この町に住む女性たちの手で細々と整備が行われている。
(上層部は何をやっている……なんて言えないわね。私でさえも彼らを動かす事は出来なかったのだから)
外の世界で女性たちの心を苛んでいるそれがあるからその罰として—————とか言う言い分が通る事はない。
実は一度ほどオトコたちに町内の整備をさせる事に成功した事があったが、真っ当な都市のインフラ整備にかかる三倍以上の金を持って行かれた。各地からかき集めたらしい女性作業員たちだけによる整備作業はずいぶんと高速かつ正確に行われたが、それは自分たちだけでは自分の尻も拭けないと証明されてしまったと言う事でもありまた支出による赤字と相まって町民たちから大いに反発された。それこそこの整備作業のための支出を補うべく、五年近く緊縮財政を余儀なくされた。
話が違うじゃないか!
岸はそう言い捨ててやりたかった。
この町は、それこそまるっきりオトコが作った物だった。
ビルだけではない、道路も、樹木も、田畑も、信号も。
一から十まで男たちが男たちの手により作り、女たちに差し出した町。
これまでのオトコたちの罪過を晴らすが如く作られた、贖罪と正義の町。
ならばその後どうすべきかわからないと言うのか。
(それもこれも全て……!)
とか憤りながら足を踏み出すと、革靴が濡れた。
三日連続晴れているのに、なぜこんな。
そう思って下を見ると、水たまりがある。
きちんとしたアスファルトであり、防水加工されているはずなのに。
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