バラエティ・ヒットザ(マン)ターゲット

 平日の夜七時。


 いわゆるゴールデンタイム。


 そんな時間に女性だけの町の住民は何をしているんだろう。と言うのは、外の世界から飛んで来る侮蔑の中でもトップクラスの頻度を誇る理屈だった。

 いや、仕事のない時間に何をしているのか。




 —————女性だけの町には、娯楽がない。ただただ退屈。人として成長できると言うか、成長できないと判断されたそれがすべて取り除かれる気の休まる時のない町。あるとすれば揚げ足取り、少しでも「ダンセーテキ」と判断された要素を持っていればすぐさま噛み付き揚げ足取りに勤しみ相手を言い負かして苦しむのだけが楽しいと思っている住人しかいない—————




 そんな失礼千万な下衆の勘繰りが、質量ともかなりの数飛んで来ていた。


 実際第一の女性だけの町の「ゲームセンター」にあるのはテレビゲームの黎明期に作られたテニスのそれぐらいであり、高尚な遊び場とされるスポーツセンターも途中で勝負を打ち切るのが美徳と言う、勝負事を排除したような町だった。

 漫画もドラマもアニメもほとんどが限定され、そこの「看板俳優」だった存在が外の世界に出て全く通用せず廃業してエッセイストとして飯を食っていると言う話もあり、さぞ制限だらけの町で作られた娯楽は素晴らしいんだろうと陰口を叩く連中もいる。


 そんな陰口を叩かれた人間は、いやそうでなくとも悪い事があってむしゃくしゃした第一の女性だけの町の住民が秘かに通うのが、いわゆるアンダーグラウンドエンタメ施設だ。

 そこではいかにも自分たちの心を乱し外の世界の風紀を乱すような女と、そんな女を好みそうな品のない男を、人形に映す仕掛けがある。そういう連中を思いっきり殴り付け、普段の憂さや外の世界の連中への不満を晴らす。

 もちろんアンダーグラウンドでなければ成り立たない商売だが、それでも需要がなくなる事はないし数は増えこそすれ減りはしない。特に、町に移り住んで来たばかりの人間たちはしょっちゅうそういう店に通っている。

 無論それについても「やっぱり女性だけの町を求めるのはそういう存在がただ憎いだけの連中である」とか「女性だけの町でも暴力はあるじゃないか」とか騒ぐ人間はいるが、それでもそういう存在があると知らされて良い意味で人間的だと安心する勢力もいたのもまた事実だった。







 だが、第二の女性だけの町では違っていた。


「ヒット・ザ・ターゲットォォ!」


 左右田カイコが、今度はタキシードを着て叫んでいる。

 子どもたちの前で見せた優しい笑顔はどこにもなく、同じ笑顔ではあるが征服者の笑顔になっている。

「さあ今日もやってきましたこちら、ヒット・ザ・ターゲット!今日もご家族みんなで、頑張って商品をゲットしましょう!今日の優勝賞品は自転車家族一人につき一台!みんな頑張ってくださいね!」

 電飾がこれでもかと輝くスタジオに座る、三組の家族。もちろん家族と言っても女性ばかりで、婦婦揃って子どもと共に登場している。もちろん片親の場合もあるが、今日はいない。

「小学三年生です!」

 そこに出てくる子供は、七割が小学生、三割が中学生と言う味もそっけもない比率。かつて「カイコおねえさん」とやくそくした事を覚えているのかわからない子供たちが、またスタジオに舞い戻っている。



「さて最初のコーナーは!お母さんは度胸が一番ー!」


 

 そんな家族に向かって出て来る、三体の人形。


 一言で形容すれば、「筋肉モリモリマッチョマンの変態」。


 キャーと言う悲鳴、と言うか不協和音そのものが上がる。



「この恐ろしいオトコの人形を、ギリギリまで近づけて下さい!」



 いわゆるチキンレースだ。しかも相当に悪趣味とも言える。


「でも皆さん頑張ってくださいね、苦は楽の種!ですから!」


 調子のいい事を抜かす左右田カイコに、本気でビビる母親たちとそれぞれの席で伏せながら祈っている少女たち。



 そんな少女たちの親に向けて、人形とは言えどうあがいても抵抗できなさそうなほどの存在が、一気に迫って来る。

 彼女たちが身を守れるのは、たった一個のボタンだけ。

 遅れれば、暴力の象徴のような筋骨隆々のボディが迫る。

 


 ただなぜか、首から下に比べて首から上は妙に野暮ったい。


 髪の毛はボサボサ、顔はやけにテカテカで、目の色も左右違う。

 これだけ派手に鍛えておいてオッドアイになるのはそれこそ先天性でなければ病人でしかなく、ましてやその原因の筆頭とされている糖尿病などなりようがない。あるいはつまらない見栄でも張って、コンタクトレンズでもしているか。

 いずれにしても、筋肉モリモリマッチョマンのそれとは嚙み合わない特徴だった。


「あーっと、見事!記録は3センチ!これは素晴らしい記録が出ました!」


 そんな存在が迫って来ると言うチキンレースから、三組の主婦は必死に生き残る。その顔は優勝賞品とか家族とかの前に一人の女性として必死なそれであり、美女が台無しでもあり余計に美しくもなった。

 その後もこんなギャンブル漫画のネタになるかもしれないようなゲームは続き、いよいよ最終ゲームである。




「ぶっ飛ばせ!破壊競争!」




 その言葉と共に、またオトコの像が出てきた。


 今度は顔だけでなく、肉体も無暗に肥え太り背中にはリュックを背負い両手には紙袋を抱えたオトコの人形が出て来た。


 そのリュックの背中や紙袋の中には、美少女の顔がこれでもかと踊っている。



「さあ皆さん、これまで貯めた時間を使って思いっきり叩いて下さい!」



 左右田カイコの合図とともに、これまで貯めた時間を使って家族総出でそのオトコの人形を殴り付ける。

 与えられた棒で、殴る。

 場所により得点は変わり、腕や足だと一点、頭だと二点、股間だと五点。


 そして、紙袋の中の美少女フィギュアだと十点。


 無論フィギュアを引きずり出す事は反則とされているが、小学三年生の少女が袋に棒を突っ込んでフィギュアを叩く姿は実に健気で、客たちも少女に向けて声援を送る。


 これも、校内実習のおかげだった。

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