マッチョイズム

「我が党としては結局第一の女性だけの町の問題であると考えます」




「第一の女性だけの町」と、この「第二の女性だけの町」。




 外の世界でどう思われているのかわからないが、二つの町には共通点が極めて多い。


 電磁波で囲まれた防壁を持ち、基本的に自給自足。



 何より、女性しかいない事。そして、女性の権利を守るために活動している事。



 ここまでの共通点がある以上、どうしても需要は分かれてしまう。

 先刻承知と言うかこの町自体が二番煎じであった以上、どうしても逃れられない事態ではあった。その事を想定してこの町が作られたのは誰もが知っており、第一の女性だけの町では収まり切れないほどの女性を受け止めるのがこの町の役目だと割り切っている人間もいた。


 だが、今この議会にいるのは自分たちの方がより女性のためになり得ると張り切り、より女性向けの政策を取ろうとしている人間ばかりである。




「では誠心誠意党としては第一の女性だけの町にどのような問題があるとお考えなのでしょうか」


 追川恵美の質問に対し、尾田兼子はゆっくりと起立する。

 背筋はしっかりと伸び、恵美と違い紙を取り出さずに深呼吸をする。




「マッチョイズム。それこそ、第一の女性だけの町を支配している思想なのです」




 マッチョイズム————————————————————その六文字とも七文字とも言える言葉だけで、第一の女性だけの町は定義できると兼子は思っていた。



「第一の女性だけの町と、我が町における人口に対しての第一次~第三次産業の比率はこうなっています。

 そして所得はこの通りです」


 兼子は続けざまに、二枚のフリップを出す。

 最初のフリップに描かれた棒グラフに因れば、第一の女性だけの町における第一次・第二次・第三次産業の従業者の数はほぼ1:1:1。

 一方、第二の女性だけの町の各産業の数の割合は1:1:4。そしてこの比率はこの町が出来上がってからほとんど変わっておらず、入れ替わりがあったとしても上下3%程度だった。


 そしてもう1枚。今度は棒グラフが描かれたフリップ。

 それぞれの町の、所得を示した棒グラフ。

 第二の女性だけの町のそれは、ほぼ人口比と同じ。



 一方で、第一の女性だけの町における総所得は、第二次産業が第一次産業の1.5倍、第三次産業の3倍以上。


「これはあくまでも平均値に過ぎません。とは言えこちらをご覧ください」


 そして出された3枚目のフリップ。

 そこには25%・50%・75%と言う三つの数字と金額が並んでいる。


 %は、町内の従業者の中での所得のランキングを示したそれ。 


 25%とは、ちょうど四等分した中での一番上の層の中の最下位、つまりちょうどそこから上が25%と言う事。

 50%、75%もまたしかりだ。

 どうしても所得と言うのはピラミッド型になってしまう以上、頂点層ばかり見ても仕方がないと言う事でありこの三つの区域はかなり重要になるはずだった。


 だがそこに並んだ数字は、追川恵美の目さえも開かせる程度には衝撃的かつ驚異的だった。


 第二次産業の75%、つまり下から二番目の層と最下層の間の所得が、第三次産業の25%の層と比べて7分の1ほどの差しかない。平たく言えば第二次産業の最下位層でさえも、第三次産業の上位層とさほど差のない所得を得られると言う訳だ。

 その流れに乗るように咲江は四枚目のフリップを出すが、そこにはさらにショッキングな数字が並んでいた。



 それぞれの層の所得額が、他の産業の所得から見ればどの辺りに入るかと言う層を示したそれには、第二次産業の上位50%、つまりちょうど中間の人間の所得は、第一次産業におけるそれで行けば34%ぐらいであり、第三次産業のそれに至っては12%—————。



 要するに、第二次産業のちょうど中間の人間は、第三次産業の上位8人に1人に相当するレベルの高給取りであると言う事。

 ちなみにこの町における第二次産業の上位50%の所得は、第一次産業におけるそれの49%、第三次産業のそれにおける46%と、実質ほとんど変わらない。


「第一の女性だけの町において、どういう層が高所得者となっているか、これで明白でありましょう。

 自然と戦い泥にまみれ、畜産業ともなればオスとも接さねばならない第一次産業。

 筋骨隆々たらねば務まらず、かつ粗野でやはり油に塗れている第二次産業。

 とりわけ後者は、見てわかる通り第一の女性だけの町における高所得者層、そして支配者階級と言えます」

「はあ……」


 追川恵美子とて知らない訳ではない。


 第二次産業やそれに類する産業が高所得者層として、もてはやされる世の中の意味を。


「ご存じのように第二次産業に従事する存在は体力面においてかなり優れており、我々が数名かかろうとも一人で太刀打ちできてしまいます。そう、暴力的な力に因ってです。

 古来よりオトコによるドメスティックバイオレンスは人間の宿痾であり、第二次産業の高所得は優秀な人間をそこに集めそのような人間を育ててしまう愚行です」


 高所得者層と政治的権力層はまったくイコールではないが、富裕層とは完全にイコールである。そして資本主義社会である以上富裕層は民主主義社会のルールとは別に権力を持つ。いくら第二次産業が体力勝負であり加齢とともに稼げる金額は減って行くとは言え、それでもいわゆる優良物件である事は何も変わらず、「妻」を得て所帯を持ち、家族を増やしていく。


 そう。




 DVオヤジの、誕生だ。

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