第二部 「第一の女性だけの町の失敗」
第七章 「第一の女性だけの町の失敗」
「第一の女性だけの町」
町議会では、今日も議論が行われようとしている。
「追川町長」
酢魯山澪議長から名指しされた追川恵美町長はゆっくりと立ち上がり、手元の用紙を開く。
「未だに外の世には、風紀紊乱をもたらすそれが転がっています。そのような産物を生み出す輩に対する我々の言葉は、未だに届いておりません。そのような行いをせずとも生きられる道がある事を、我々はとくと教えねばなりません」
江戸時代の毛利家が正月の度に「倒幕の時期は」「未だ時期尚早」とかやっていたような口上を、平然と述べている。しかも新年の始まりだけでなく、毎月初めに毎回だ。その口上を、与野党問わずスタンディングオベーションで迎えている。
「さて、本日はどのようにしたらこの町の魅力を外の世界に広められるかです。
現在我が町は二年連続で人口増大しており、取り分け社会増においては前年度より20%増しとなっています。しかし依然として空き家は少なくなく、それはこの町が未だ外の世界の女性にとって魅力的ではないと言う証拠です。そのために一体何が必要であるか、そのために我々真女性党は案をまとめました。
真女性党の党首として、発表させていただきます」
追川恵美は、町長ではなく党首としてそこにいた。常日頃から真女性党の議員たちの間で行っている会合の成果を披露すべく、手元に視線を落とす。
「さてもちろん、犯罪発生率の低さをアピールする事は必要不可欠です。
その上で外の世界にはびこる存在に対しどう対処するか、あまり熱心過ぎると外の世界が充足されてしまい、この町が要らなくなるのではないか。そのような声は度々上がって来ております。
この町は、世界に人類があるべき姿を見せるためのモデルケースであると私たちは考えております。いずれ全世界がこのような町になり、誰もお互いを傷つけない優しさであふれた世界にするために何をすべきか。
我々真女性党としては、電波塔の内勤者たちの給与と人員の拡大を行うべきであると判断した次第です」
電波塔とは、この町に男性性を持った生物が侵入しないように作られた防衛システムだ。
その防衛システムのメインがいわゆる「十五階」だが、その下にも大量の職員がいる。もちろん清掃や雑務などの職員もいるが、その大半が「内勤者」だった。
「その内勤者たちの手により外部への交渉は行われているのですが、成果は正直上がっていません。より人員を増やし、さらに外の世界の協力者を募るべきであると考えます」
「それらの外部組織との交渉はうまく行っているのですか」
「電波塔からの報告によりますとおよそ百名程度の協力者を集めているようで、彼女たちの同志も加わっているとすればおよそ倍程度の数が見込めます。現在進行形で動いているようで現在でもかなりの数を増やしているようです」
この活動はこの町が出来上がった時からされており、広報活動に従事する事は町内の子どもたちのあこがれだった。
世の女性たちを苦しめるそれを排除すべく外の世界に向けて活動を行い、その手の企業に陳情している。また最近ではいわゆる草の根運動に徹し自分たちと同じ思想を持った存在を世界中からかき集めており、そして同志となった人間たちは次々と町に移り住み、安寧の時を得て過ごしている。
この前町にやって来た二人の女性も早速その広報活動の任務に付き、自分のかつての知人たちに協力を呼び掛けている。成果の方はまだ挙がっていないらしいが、それでも彼女たちの働きぶりは目を見張る物があると議員たちからも評価されており出世の対象ともなっていた。
「内勤者たちの給与等の待遇改善、及び指導等の力を尽くしまた歴史教育も行い質を高めるべきであり、そのための予算を我々の給与からねん出すべきであると考えます。我々の所得から一割を減ずることにより計算では二十名の増員が可能であると出ています」
自らの計算を示すためのフリップが出される。この数年で三割以上給与を削ったにも関わらずさらに我が身を削り、内勤者のために使おうとしている。
「尾田議員」
それに対抗するように挙手したのが誠々党党首・尾田兼子だった。
「誠々党としては、この町が唯一無二の存在である事をアピールできていないのが原因であると思われます。
人間に限らずありとあらゆる生物が男女性をもって初めて子どもを産む事が出来ると言う古来からのカルマに囚われてしまった存在からしてみれば、この町は十二分に魅力的なそれになるはずでした。しかし現在、この町の価値は想定の半分になっています」
想定の半分。それこそ、そのもう半分を奪う存在がいてこそ出てくるセリフ。
「では誠心誠意党としては」
「はい、我が党としては結局第一の女性だけの町の問題であると考えます」
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