「第六章 JF党事件」
「女性だけの町」にて、まるで風俗嬢のような格好をした女性がいると言ったら皆さんは驚くだろうか。
そしてそれが公務員、さらに言えば警察関係者だとしたらどう思うだろうか。
彼女たちは交番ごとにとまでは行かないが警察署ごとに何人かおり、マッサージ師の資格を持っているれっきとした公務員である。
「女性だけの町」ができた理由の中で「男性からの性犯罪」が質量とも上位クラスに入るだろう事は想像に難くない。女性が安心して夜道を歩けない理由の筆頭は間違いなくそれであり、日々女性は貞操の危機に瀕していると言う訳だ。
だが性犯罪は、決して男→女とは限らない。女→男もあれば、男→男もある。
そして、女→女もある。と言うか、レイプ同然のそれもあった。
第二次大戦中の最大の社会問題はそれであり、「犠牲者」の中にはその件で心身を病んで自ら命を絶った人間も混ざっていた。そしてもちろんそれをきっかけに逮捕されたり自ら町を去ったりした女性も多く、悪い意味で女性が男性と変わらない事を見せ付けてしまったと言える。
その一件をきっかけに彼女たちはその職務を担当する事となり、以降綿々とその職務は受け継がれている。
彼女たちは「女性の病気」を治す専門家であり、第二次大戦時代から必要不可欠な職業なのである。
だいたい十二歳ごろから始まり、五十代から還暦ぐらいまで付き合わされるその病気を治すに当たり、「自首」及び「出頭」するのは全く珍しくない。あまり人気のある職種ではないのは間違いないが、それでもこの町の方針として給料は高い。しかも公務員であるから安定職でもあり、体力もそれほど要らないので勝ち組中の勝ち組職である。それでも労働可能年齢は短いのではないかと思われるかもしれないが、ある程度齢を重ねた人間は指導役に回るのでそれほど心配もない。
————と言う風に重要かつ不可欠な職業だが、その存在は一部の人間たちにとって全く好ましからざる異物だった。
これでは結局、男性と同じ。
せっかく性差別から逃れ、真の女性解放を目指して立ち上がったのに。
第二次大戦から二十年ほどの時を経て、そのような理由で立ち上がった政党が存在した。
そう、かの悪名高い「JF党」だ。
JF党は第二次産業偏重の町の体系を変えるべく結党されたと自ら公言しており、いわゆるワーキングプアである第三次産業従事者たちの支持を得て党勢を拡大。
選挙にてJF党は二〇〇議席のうち九十六議席を確保し、一気に政権与党にまで上り詰めて行くかと思われた。
もしこの時、「風俗嬢」の廃止を求めなければそれで政権を取れていたと言う説もある。
そうなっていたら、それこそ「女性だけの町」は全く違った姿になっていただろう。
そして、そうならなかった事はそれは女性だけの町にとって幸福であっただろう。
二〇〇分の九六議席—————これでは二大政党にはなれても政権は取れない。当然政策が通る訳もなく、その後「民権党」と「女性党」に分裂した政権与党、創始者たちが作った政党は一致団結してJF党の政策を退け続けた。四十八%の支持を無視するのかと吠えた所で、五十二%の支持にかなわないのが民主主義だ。
JF党議員たちは支持層を救えと激しく訴えたが政権与党は第二次産業の重視は男性に対抗するための絶対的柱だとして譲らず、飲み込んだのは自分たち議員の議員報酬のカットした分を第三次産業に回すと言うそれぐらいだった。たかが二〇〇人分を、だ。それこそ小銭でしかなく、ちっとも生活の助けになどなりはしない。それでもその資金は今でも第三次産業労働者に行き渡っており、JF党にとって成功ではあった。
だがその流れで、JF党は「風俗嬢」を削れと言い出したのだ。
曰く彼女たちは外の世界の男が求めるそれであり風紀紊乱の象徴である、側室とは違う「公妾」ではないか。
不必要に着飾る姿は極めて煽情的で、これでは女性だけの町を作った意味がない。
女が男と同じかそれ以上に下賤な存在である証であり、即刻廃止しコストダウンを図るべきだ、と。
だがこの論旨に、歩み寄りを見せようとしていた政権与党が反発。
彼女たちが生まれるまであふれていた性犯罪がほとんどなくなり、第二次大戦を勝ち抜けられた。そんな功績者を排除するなどとんでもない。また格好についてもその方が欲求を解消しやすく効果が大きいため変更する事は出来ない。
そう党首自ら宣言しそれにスタンディングオベーションで政権与党の党員たちが応えたため、JF党は猛反発。そしてそのまま両党は一気に不仲になり、その過程で一部のJF党党員が第三次産業の保護と言うのは二の次で「風紀を守るため」に最初から彼女たちを目の仇にしていた事がマスコミに暴露され、支持率が低下。
この事実に上層部は動揺を隠しきれず、彼女たち「風俗嬢」の外の世界での生活を力説しそんな人間はいてはいけないと余計に過激な論旨を振りかざした。だがこれは言うまでもなく中立層を逆側に追いやっただけであり、支持率は余計に低下。
さらにこの時期になると創始者たちが富貴に溺れているとか言う虚報をJF党議員が流していると言う疑惑が広まり、そしてその疑惑は現実となりその議員は議会で激しく糾弾された。
だがJF党は彼女を追放しようともせず、むしろそう反発する事はやましい事があるのではないかと逆に政権与党を追及した。
そしてこの結果、まともに選挙をやれば政権交代はおろか五〇議席も取れないと言う予測までされていた。
その結果、JF党は自分たちの政策が実現されない事に不満を抱き、あちこちでテロ行為を開始。その過程で何十人単位の「公務員」が殺され、女性だけの町始まって以来の重大事件となった。
これが、「第三次大戦」である。
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