「第五章 「第三次大戦」の理由」

「女性だけの町」はこれまで、正道党事件を含めれば四度の「大戦」を記録している。

 もっとも正式には三度しかないが、それでも町を作る前から今まで、四度にわたる危機があったと言う事は間違いない。




 その内最初の「第一次大戦」に当たるのが、女性だけの町ができる何十年以上前から数年続いた戦いだ。


 その舞台は女性だけの町ではなく、我々が良く知る学校その他だった。


 このゲリラ戦と言うか各地で行われた「戦い」は、結論から言うと女性たちの惨敗に終わった。


 その戦いの端緒になったのは諸説あるが、一番大きな問題となったのは今も外の世界で放映が続けられているあのアニメの描写だった。

 国民的アニメのそれにてそのような風紀を乱す描写をしては良くないのではないかと抗議の声を起こし、その手の演出を消そうとしたのである。放送局は原作者がやっているのだからで逃げ回ろうとしたが、それでも彼女たちは粘り強く抗議と言う名の聖戦を続けた。



 だが時代の変化に伴いその手の描写が減り始めていた頃、事件が起きた。

 彼女たちの中でとりわけ過激な思想を持っていた幹部の一人が、原作者本人の家族を襲撃。原作者の妻に重傷を負わせてしまい、これにより「排除しようとする人間の方が作品よりよほど危険である」と言う烙印を押され戦力は急激にしぼみ、「第一次大戦」は敗北と言う形で終結したと言う事となっている。

 ペンは剣よりも強しが民主主義社会を支える基礎の一つである以上、ペンから生み出される表現を剣と言うか暴力で抑え込むのは反則と言うより自滅であり、テロリズムだった。その犯行を行った「下っ端」はある意味華麗に単独犯として切り捨てられ、刑期を終えた現在ではその運動に加わる事も出来ず偏狭で頑迷固陋な犯罪者として女性たちからすら嫌われてしまい、ひっそりと人生を終えたとも言われている。




 そんな訳で表向きその運動は弱まったが、その過ちを取り返すように彼女たちは遺伝子工学に精を尽くし、さらに女性だけの手で自らのための町を作る事を企図。それが「第二次大戦」とされている。

 この町における最大の観光地、と言うか遺跡はその時命を落とした数多の作業員たちである。初代町長は自ら重機を動かしたとか苗を植えたとか、そんな本物の開拓の歴史がそこにはあった。中にはこんな苦労をしてまでと投げ出した女性たちも多数いたが、それでも彼女たちは金を払って重機や材料などを買う事はあっても「男手」を借りる事は全くなかった。文字通りの「女手」だけで今や六ケタの人間が住む街を作り上げ、自治体として完成させた。

 

 そしてこの間、男たちは何もしていない。

 強いて言えば女たちに適正価格で資材などを売っただけだ。

 その事を好きの反対は無関心だと責める層もいたが、その責める層を男たちは無論「第二次大戦」の従軍者さえも無視した。

 その結果彼女たちは負け犬の遠吠えの烙印を押され、事もあろうに女性だけの町を作ろうとする人間の足を引っ張り始めた。

 具体的にはそのような崇高な理念に対し男はずっとはねつけ続けて来たとか今こそ懺悔の意思があればとかまるで第一次大戦を敗戦に終わらせた戦犯である襲撃犯のような事を言い出し、女性がちっとも進歩していない所を男たちに見せつけたのだ。

 その結果第二次大戦に従軍していた進歩的で独立独歩せんとしている女性たちから戯言の烙印を押された彼女たちは先に述べた襲撃犯と同じように男女両方から嫌われ、誰からも相手にされなくなってしまった。


 そして孤立した彼女たちは今自分たちが認めまいとしている存在が作る「女性だけの町」を認めずに、真の女性だけの町を作らんとしていた。

 だがそこには水道もガスも発電所も、何より畑も住居もどうすればいいかなどびた一文考えられてなどいなかった。「女性だけの町」が極めて計画的に開拓されているのを思うと雲泥の差であり、まるっきり机上の空論だった。

 実際、この本で取り上げている「女性だけの町」には建築家だけでなく都市デザインのプロも加わっていたが、彼女たちのそれには専門知識のせの字もなかった。

 なんでそんな有り得ないもんを作るんだよ、「女性だけの町」が実際に作られているんだから同じようにやればいいだろとか言うごもっともな進言が幾たびもなされ、その度に彼女たちは私たちは勝手にぼやいてるだけなのにと耳を塞いだ。




 そんな事がグダグダと続いている間に、ついに「女性だけの町」は完成。

 男性性を持った生物から女性を守るための電波塔とその電波塔を中心とした雇用を生み出すための大企業、さらに「産婦人科」に都市インフラや建造物。さらに海や農家など食糧を供給するシステム。

 何もかもが、女性の手により作られた女性だけの町が完成したわけだ。


 この成功は女性だけでなく男性からも歓声をもって迎えられ、世界中を感心させた。彼女たちは世界から称賛され、新たな時代の担い手とさえ言われるようになった。

 もっとも数十年を経てある程度評価が定まった今では人類のコミュニティの一つに過ぎないと言う評価に落ち着いているが、依然として住人のポテンシャルについての評価が高い事は先に述べた通りである。




 だが、世界中から褒め称えられるほどの花には、どうしてもその甘美な蜜に誘われてやってくる虫がいる。

 その虫は蝶々やカブトムシだけではない。

 油虫や毒虫だっているのだ。


 いや、もっと性質が悪い虫がいた。




 その虫が起こしたのが、「第三次大戦」だった。

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