外伝1 書籍「女性だけの町」

「第一章 システムの完成度」

「女性だけの町」。


 ほんの数十年前まで、そんな物が実際にできるとは誰も思わなかった。

 だが女の一念岩をも通すと言う訳でもあるまいが、科学の発展はその自治体を完全に実現した。

 あるいは「女性だけの国」とでも言うべきかもしれないその町には独自のルールがあり、男性性を持つ生物は徹底的に排除される。人間だけではなく犬猫鳥の類まで接近する生物は排除と言うか殺害され、死体は全く顧みられる事はない。そして彼女たちの処置は動物だけでなく植物にも及ぶ。

 例えばその町ではキウイフルーツはない。理由は単純で、雄花と雌花があるからだ。これら雄花・雌花がある植物を覚えるのもまたこの町の学校では必須の授業であり、それができなければ単位も取れなくなる。


 そんな中で唯一大きな顔をしている男性性の生き物は、家畜である種牛だった。人間でさえもクローンが実現したと言うのに、肉だけはどうしてもできない。味も栄養価も普通の肉より大きく劣り、そのくせ値段ばかり高い。それこそ自然保護のために世界中で最高の科学者を注ぎ込んでクローン肉の発展をせんとしているが、実際その成果はどこでも上がっていない。魚についてもまたしかりであり、女性だけの町と言う概念により執着する住民たちは実質的にベジタリアンと言うかヴィーガンのような生活を送っている。

 

 ではそれらを「輸入」する金銭はどこから出ているか。

 その答えは、農作物である。

 米や果実、その他の農作物を外の町に卸し、その代価として様々な資材やその他を仕入れている。中には労働力を欲しがるケースもあったが、それは全て拒否されている。


 具体的に何をやらせようとしたかと言うと、清掃作業や配管工事だ。


 女性だけの町において一番稼げる産業は、政治家でも管制塔と言う名の防衛システム及び女性だけの町を城下町とする企業でもない。

 その手の第二次産業だ。


 

 既にご存じの方も多いだろうが、「女性だけの町」を作ったのは女性である。

 町の構図から個々の建物の設計、さらにクローンを活用した「出産」システムや防衛のための電波塔システム。それらのほぼ全てがゼロから女性たちの手によって作られ、建築さえも女性たち自らが行った。男が介在していると言えるのは、それらに使われた材料ぐらいのものだ。それこそアスファルトの一個一個さえも、女性たち自らが打ち込んでいた。



 そんな環境だから第二次産業が中核となったのが自然な流れだと言う指摘をする流れもあるが、その指摘には異を唱えたい。


 そもそも先進国と言うのは第三次産業従事者が多い物であり、第一次産業・第二次産業は従事者の数はともかく経済的には小さくなりやすい。だが女性だけの町では前述の通り第一次産業も多数の穀物を輸出しているように一定以上の地位を得ており経済的にほぼ1:1:1の比率である。

 だが実際の労働者の数は、第三次産業の人間の方が多い。人数で言えば1:1:2であり、要するに所得もそういう比率だと言う事である。


 そしてこの比率は、女性だけの町が完成してからほぼ今まで、ほとんど変わっていない。

 それはこの町が、実にシステム化された町だと言う事を示している。


 私はこの本を執筆するに当たり女性だけの町に長期滞在したが、そこで景気よく振舞っているのは常に第二次産業に従事する女性たちばかりだった。第三次産業の従事者でも景気が良いのは居酒屋のようなどちらかと言うと男臭い場所の従業員ばかりであり、バーが三軒潰れて居酒屋が三軒建ったと言う話を聞いている。


 飲む打つ買うの三拍子とか言う古めかしい言葉があるが、この町に「買う」ような「男」はいないし「ギャンブル」は男の悪癖として徹底的に排除されており、その結果「飲む」がかなり発展している。だからこの町の酒と酒を出す店のサービスはかなりレベルが高く、第二次産業の従事者と並んで輸出産業となり得るポテンシャルを持っている。

 最近ではこの女性だけの町に女性だけの観光ツアーを組んでお酒を呑むと言うそれも行われているが、持ち出しは禁止されている。あくまでも女性だけの町の中だけで消化し、外部に流出はさせない。たまに持ち帰りOKのそれもあるが、外の世界でも吞めるような安酒でしかない。サービス面の模倣をされる危険性を問うた事もあるが、それについては上層部は寛容だった。


 曰く、人間としてあるべき事をしているだけだと。

 あくまでも接客業としての基本を守り、お客様の事だけを考えた結果だと。

 

 ではそういういわゆる富裕層が行かない店はどうなっているのか。

 もちろん余分な金などない筆者はそういう店にも行ってみたが、正直マナー面は落ちる。不足ではないが不足でないだけで、私が入った店のマナーは正直どこも合格最低点レベルだった。

 ついでに言えば、客層も良くない。いわゆる上品な隠れ家的なバーを想像して行くと確実にがっかりする。具体的に言えば、それこそ酔ってくだをまいている客が多いのだ。居酒屋のように仲間との会話を楽しむ所がなく、かと言って酒の味を確かめるでもマスターと語り合うでもなく、マスターと言う名の愚痴の聞き役に愚痴をぶつけていた。そしてマスターもマスターで同じように愚痴っぽい事が多く、そのためわざと光度を落としているはずの照明以上に店は暗かった。


 その店がどうなったかはここでは書かないが、その必要もないだろう。

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