「二大政党制」

  また、この町に「第一の女性だけの町」から導入されたのは防御システムである「電波塔」や女性だけで子供を作れる婦婦のシステムを支える「産婦人科医」だけではない。




「ではこれより、第三十六回町議会を開始いたします」


 町議会の開始を宣言したのは、酢魯山澪議長。


 議場の左側の席に座る、「誠心誠意党」の副党首。


「起立、礼、着席」


 学級会のような挨拶で議員たちを動かすのが、町長である追川恵美。


「真女性党」の党首である。




 これ以外の政党は、この町に存在しない。

 と言うか、禁止されている。


 これもまた、第一の女性だけの町の失敗を汲み取った結果だった。




 第一の女性だけの町も、表向きには「民権党」と「女性党」の二大政党制と言う事になっている。だが完成から今まで生まれた第三の政党は、どちらもあまりにも大きな傷跡を残した。

 ゆえにこの町ではそのような過ちを犯さぬために、法律により政党は「真女性党」と「誠心誠意党」略して「誠々党」のみにされている。もちろん両政党がどんな理念を唱えようが勝手だが、第三党を作る事は許されない。結社の自由に反すると言う論がなかった訳ではないが、それでもあの惨劇は女性だけの町のみならず世界中を騒がせ「女性だけの町」の信用そのものを毀損する事につながった以上仕方がないと言う論が最終的に勝ち、現在まで第三の党は存在していない。


 現在の政権与党は真女性党だが、それまでは誠々党が三期九年に渡り多数を獲得し政権を握って来た。

 両党の立ち位置を、第一の女性だけの町の模倣だと言う人間もいる。

「我々真女性党は、この第二の女性だけの町をさらに発展・拡充し、第三・第四のそれのモデルケースにしていく事を誓います」


 追川恵美はそう演説して政権を取った。

 これはまさしく女性だけの町の拡大方針を打ち出す「女性党」のそれであり、その方針を模倣したと言われても言い返せない話だった。

 さらに言えば誠々党は自立主義・孤高主義で、成功を見せつけていれば勝手に追従者も出て来るだろうと言う方針であった。この点、「民権党」に近い。


「あるいは追川さんの言う通り、これよりしばらくは拡充に心血を注ぐべきかもしれません」

 誠々党の尾田兼子党首はそう敗戦の弁を述べた。当然支持者からは批判も受けたが、真女性党にせよ誠々党にせよ岩盤のような支持者などそう多くはない。文字通りの無党派層、それこそ良いと思った方に投票すると言うある意味主体的な層だった。実際この町の選挙の投票率は最低でも85%であり、文字通りの民主主義が実現されていた。




「ではまず、今年度予算案についての審議を行います。真女性党の綿志賀さん」

「はい」


 そして両政党による審議がついに始まった。

 始まりは言うまでもなく、最重要課題である予算の分け方である。


 行政と言うのは極端な事を言えば税金その他をどう分けるかであり、うまく分けてくれる人間を選ぶのが民主主義であり選挙である。国をよくするとか言うが、それもまたうまい具合に税金を振り分けると言うに過ぎない。もちろん他から金を引っ張って来るのもあるが、それだってどう行政が動くかによってよそから引っ張って来られる金の量は違ってくる。


「我々真女性党としましては、犯罪の僅少さを外の世界にアピールし、世の悩める女性たちをこの町に招聘する事が第一であると考えます。

 具体的には警察官の数を増員し、また宣伝のために情報調査機関及び交流機関に予算を投入する事を求めます」

「では誠々党議員」

「その予算はどこから出るのですか」

「我々の給与を一割減俸すれば、警察官を年間百人増員できます。またこちらをご覧ください。それ以外にもこの議会に投入される数々の歳費を削ればこれだけの額が浮き、その分余所に予算を回す事が出来ます」


 真女性党の副党首、綿志賀咲江はフリップを取り出しながら政策を説明する。自分たちの骨身を削る代わりに治安維持のため警察官を増員し、犯罪の少なさをさらに示すべきだと言う話だ。

 実際、そこに記された犯罪の件数は極めて少なく、外の一般的な町と比べると数十分の一以下、第一の女性だけの町と比べても三分の二程度だった。


「確かに治安維持のために予算を増額するのは悪いとは思いません。しかしそのフリップからして現状では十分に少ないと私は判断します。それに警察官の増員と綿志賀さんはおっしゃいましたが、その警察官を配備する派出所その他についてはどうなのでしょうか」

「その点については既に二か所の派出所と四か所の交番、及び装備も賄えると計算が付いております」

「私はその上で、警察官の増大より宣伝に予算を割くべきであると考えます。この町の犯罪の少なさ、治安の良さは元々それを売りとした事もあり世間的に言って周知の事実かもしれませんがまだまだアピールが不足していると考えております」


 それを認めた上でさらにゼロに近づけんとする真女性党、とりあえずその犯罪の少なさを世に示すべきだと示す誠々党。

 議論は踊っていた。

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