第45話 衝撃展開
マネージャーさんから発せられた言葉を、俺は理解することが出来なかった。
それは紗月も一緒みたいで、場が凍りついていた。
「ねぇ、今なにを?」
紗月が震えて、必死になって。何も信じられていない。そんなふうに、マネージャーさんに質問をする。
けど、マネージャーさんは淡々としていて。
「ですから――紗月さんと琉斗さんに、最後の挨拶をしに来ました」
さっきの発言を取り消す考えは、微塵も無い様子であった。
「最後の挨拶って!? 私は何も聞いてない!」
パニックになっている紗月が、感情的にマネージャーさんへと言葉を投げつける。
「……それに関しては申し訳ないです。けど、私はどうしても、マネージャーをやめないといけない理由ができてしまったんですよ」
「……話して!」
「まず、私は。社長に拾われて、この会社のマネージャーになったんです」
「拾われた?」
「そう、私が、全てを失って。積み上げてきたものが、一瞬で崩れ去って。そんな時に、この会社の社長さんが、私を拾って雇ってくれた」
社長さんもうんうんと頷いている。
ということは、このお話は本当ってことか。
「マネージャーとして、もう6年、7年くらいになるかな。紗月さんが、ドラマの主演を張れるようになって。私も、嬉しかったし誇らしかった」
「ならやっぱり! 私の元から離れる理由なんてない!」
「――けど、私の使命は、多くの原石を発見すること」
「…………?」
「紗月さんみたいな、才能に溢れた人を見つけて、1人前にすることが私の仕事だって、そう教わった」
「――私が、1人前になったから?」
「そう。もう、私が居なくても。紗月さんは充分やって行ける。――彼氏さんも、すごくいい人みたいだしね」
少し俺の方を見て。そんなことを言われるのは恥ずかしいけど――それより、紗月がどう思っているのかが。
「そんなの……! 私は、マネージャーさんがいるからここまでやってこれたのに!」
「――ありがとう。けど、私は、マネージャーにしては、大立ち回りをしすぎてしまった。」
「「え?」」
俺と紗月の声が重なる。マネージャーさんが何をしたのか。皆目見当もつかない。
「さっき私が居なくなってたお仕事――それは、紗月さんと琉斗さんと写真を撮ったやつを成敗すること」
やはり、と思った。そんなことをやっていると気はしていた。
「けどさ、ド派手にやりすぎちゃったんだよね」
「…………やりすぎるってあるの?」
被害者である紗月からすれば、やりすぎる、なんて言う気持ちはないのだろう。
まぁ俺も同じようなものだしなぁ。
けど、マネージャーさんのやりすぎた、は別の方向に向いていたみたいで。
「本名、バラしちゃったんですよ。これバラしたら、過去が全部バレちゃうのに」
「……私にも、教えてくれなかったのに?」
「――つい興奮しちゃって。“浅野玲奈”これが、私の本名ですよ?」
俺と紗月の目が合う。覚えていたんだろう。今日の昼間、ちょうどその名前を見たんだって。
「じゃあ、やりすぎたって言うのは――」
「いや、さすがに殺してはないですよ? 名前を言っちゃったのが、やりすぎたなぁって」
……なるほど。ここまで必死に隠していたのに、ついついバラしてしまった。
それでやりすぎたと思って、反省している。
それは、わかる。けど――
「それと私の元からいなくなるのに、なんの関係が?」
「それは……私の方が目立つと、せっかくの紗月さんの仕事が霞んじゃうから」
マネージャーさん――いや、玲奈さんの言いたいこともわかる。
紗月のことを大切に思っているからこその決断、ということになるのだろう。
「――私は! 玲奈さんにいてほしい!」
「それは、どうしても……」
玲奈さんは渋る。自分の決めたこと、社長からも多分言われていたことなんだろう。
それをねじまげるなんて、できないと。
「――社長!! 社長にもお願いします! どうか、私から玲奈さんを奪わないで……」
ついに、社長にまですがりついた。
けど多分、今回の話は社長の意向も関わってると思うんだよな。だからどうしようもないんじゃないのかなって。
……本当ならさ、俺だって紗月の味方をしてあげたいよ。その気持ちはいちばん大きい。
だけど。今回の話は仕事の話で。
ちょっと会見に出ただけの俺が首を突っ込んでいい話じゃないと思うんだ。
紗月のこれからに関わる話。表面的なことしか知らない俺には、口出しする権限なんてない。
今の俺ができることといえば、この後紗月を慰める準備をすることかな。
と思っていたら――
「……そうだね。元々は私が玲奈に対して指示していたことなんだよね、今回のこと。けど、事情が変わったわ」
そう言って、俺たちにスマホの画面を見せてくる。その画面には――
『消えた天才、浅野玲奈。本日、5年ぶりに目撃情報が出る!!』
「な、なにこれ……」
「まぁ、十中八九例のエキストラだろ」
社長の意見に、俺も賛成だ。
「ゴホン!」
社長がひとつ咳払いをする。
「――こうなった以上、さっきまでの俺の指示は取り消しにさせてもらおうか」
「……それって!?」
「あぁ、これからも紗月と玲奈は共にいてもらおうか」
紗月の顔に、笑顔が戻ってくる。
「そしてもうひとつ。――玲奈、現役復帰したらどうだ? もう怪我は治ってるだろ?」
玲奈さんの顔には、驚きと困惑、その両方が現れる――。
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