第43話 私の名前は――

「あ? ちょっと黙って聞いてりゃ随分と言ってくれるじゃねぇか」

「そりゃあな。私の大切な人を汚そうとしたゴミにはどれだけ言っても足りねぇだろ?」


 本当に足りない。今すぐにでも殴りかかってボコボコにしたい。

 ――この願いを、叶える方法があるね?


「というか、悔しいなら力で解決してみろよ底辺が……! お前、どうせ行動できねぇんだろ?」


 思いっきり煽ろう。煽って、煽って、相手に先に手を出させて。

 そこを思いっきりしばく。それくらいしないと、個人的には全く怒りが収まらない。


 わかってる。紗月さんが、こんな時期に恋愛をしているから写真を取られたんだって。

 けど共演者なら、それを秘匿するべきだし。

 紗月さんが恋愛することに、反対していた人なんて、表面上はいなかった。


 それを、自分に靡かなかったから、それだけの理由で敵に回る。


「ほんとに、ダサいよなぁ。こんな女に言われて恥ずかしいとは思わないのか?」

「……お前、ほんとに手を出されたいのか?」

「やれるもんなら、やってみろよ」


 相手の怒りのボルテージが上がってきているのがわかる。

 まだまだ、20歳前後だろう、勢い余って手を出すことももちろん、あるに違いない。


「というかそもそも、お前みたいな弱い女が口答えすんじゃねぇよ。元はと言えばあいつが俺の事を振ったのが……」


 言いがかりを呟き始め、自分のせいだと全くわかっていない様子で。


「はっ。そもそもお前みたいなモブ、紗月さんの眼中に無いだろ」

「お前、本気でやるぞ? 刃物持ってんだからなこっちは」


 ――来た。こんなことで喜んでるの、おかしいってのはわかってるけど。合法的に、制裁を加えられる。


 あぁ、正当防衛って素晴らしい。


「来いよ。刃物にしか頼れないのか? 男のくせに。弱っちぃな」

「はっ。お前の顔が恐怖で歪み血で染まるのが楽しみだなぁ!!」


 そう言って、相手はカバンから刃物を取り出す。

 普通の料理包丁ね……。切れ味はそこまで良くない、と言われている。


 ねぇ、紗月さん。私、今からやるよ。


 ずーっと、紗月さんのことをサポートしてきて。だんだん実績を残してきて、私もすごく嬉しかった。


 途中の挫折も、恋愛相談も。全部、思い出に残ってる。


 ――私の、失われた青春を、遅ればせながら味あわせてくれたこと、感謝しかないよ。


 今からやるのは、その恩返し。これからの活動に支障を及ぼす不穏な奴は、今のうちに潰して、私は次のステップに進むね。


 ――怪我した右膝、ちゃんと動いてくれるかな。

 うんうん、動かなくても、やるしかないんだよ。

 私の方から焚き付けたから。一瞬で勝負をつけよう。


「なぁ! この刃物を見てもなんとも思わねぇのか!?」

「残念ながら全く。雑魚が何を持っても雑魚のまんまだよ」


 私の言葉に顔を真っ赤にして。

 刃物をふりまわし、こちらへ向かってくる。


 ――刃物は、振り回したって全く怖くない。


 向かってくる中、冷静に相手を見て。勝負のポイントはひとつ。いかに相手の刃物を無力化するか。


 それだったら――。

 相手の振り回している姿には隙がある。その隙をぬって、相手の刃物の刃先を両手で挟み込むように掴む。


「なっ――!?」


 そのまま強烈に刃物を曲げる力を加え、相手が刃物を持ち続けられないようにする。


 そして、それと同時に脛に蹴りを加えて相手の体勢を崩す。


 刃物が遠くに飛んだことを確認して、相手を地面におさえつける。


「なぁ、クソキモストーカー。お前の顔、恐怖で歪んでるぞ?」

「――っ!」

「じゃあ、お前はここで痛みに苦しんでけよ」

「――警察に突き出さないのか?」

「これでも紗月さんに近づくってなら、問答無用で突き出すが?」

「それは、しません」


 そりゃそうだ。紗月さんの近くには、私がいる。そう思われてるんだから。


「じゃあ、私はもう行くからな」


 そう言って、紗月さんたちの元へ戻ろうとする。――最後に挨拶くらいは、しないと。


「――お前、名前はなんて言うんだ?」


 数歩歩いたところで、声をかけられる。

 仕方ない、教えてあげるとするか。


「――浅野玲奈」


 そう言い残して、今度は何を言われても気にせず歩き出す。

 ――紗月さんに、別れの言葉を言わないと、ね。








 ―――――――







 高校忙しすぎるんです!

 マジで許してください!更新遅いですけど!


 あと少しで完結ですね――!

 頑張ります!

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