第41話 それぞれの闘い

「さて湊よ。始めるぞ」

「ほんっと、久しぶりすぎて腕が訛ってないか心配すぎるけどな」


 湊と晴翔は、湊の家にて会見の開始に備えていた。

 親友の助けをするために、である。


「えーけど、ツール作ればどうにでもなるくないか?」

「うーんまぁ、アカウント5000個作ればいいんだろ? んであとは拡散拡散っと」


 すごいことを言っている。アカウント5000個など常人にはできるはずもないが――彼らなら、簡単に作れるらしい。


 昔の名残、とはよく言ったもの。悪行が、こんな形で役に立つとは……と、琉斗は思っていたらしい。


「お、始まったぞ?」

「えっと、まず最初のご予定は?」

「えーっと……琉斗イケメンって流しまくって、女性を味方につける」


 ふざけた作戦。そう思うかも知らないが、彼らは本気である。


「――なんか、事実だけど癪だよな」

「それな? ……けど、イケメンじゃないとあのモデル様を射止められてないのも事実」

「くわぁ! ――よし! やろう!」

「了解! 湊、よろしく頼むぞ」

「もちろん、二人で力を合わせて、だろ」

「後で琉斗にはなにか奢ってもらおう」

「これは貸し100くらいだもんな!」


 彼らの闘いは、長いものとなった。

 事前に伝えられていたことから若干逸脱して、琉斗にキレたり。

 途中からは、上手く行き過ぎて逆に怖くなったり。

 それでも――親友のため、彼らはやり遂げた。


「「よっしゃー!」」


 会見が終わった瞬間、2人は手を叩き合う。

 もう、彼らの任務は完了した。

 親友のため、最強コンビは暗躍する――。




「ってか、あいつら付き合ってるって言ってたよな?」

「……まじじゃん。事情聴取しよ」







 ――――――――







 走っていた。私は、超高速で走っていた。

 目指すは、紗月さんと琉斗さんが、仲良くなるきっかけになった場所。


 早くそこに行かなければならない。

 今なら絶対にいるから。今回、マスコミに写真を流した犯人が、絶対にそこにいるはずだから。


 無理を言って、紗月さんの元から離れてきた。

 彼女には何も言わずに、この任務を遂行しなきゃけない。そう思ったから。


 これが、私に出来る最後の仕事。

 これが終わったら――もう紗月さんには琉斗さんがいる。


 あんなにお似合いで、あんなに仲が良くて。

 別れる未来が全く見えないカップル。

 いいよねって思った。


 幼少期を全部、1位になるために、努力するために捨てていた私からすれば、あんなに輝かしい姿がすごく羨ましい。


 ちょっとの嫉妬が入り交じっている。けど、紗月さんのマネージャーとして、まだまだ過ごしていきたかった。


 ――けど、仕方ないよね。上からの命令だから。


 本当だったら、もっと早くに言うべきだったんだと思う。そんなことはわかっている。


 だけど、撮影、会見、マスコミ対応、恋愛。

 こんなに対処しなきゃ行けない問題が山積みだった紗月さんに、また新しい心労の原因を伝えるなんて、出来なかった。


 私も、期待から来るプレッシャーに押しつぶされそうになったことがある。

 そして、そこから逃げた結果が今。


 紗月さんには、同じ思いをして欲しくない。

 だからこそ、私は全速力で走って。目的の場所に着く。


「あなたが、メディアに情報を流したのはわかってたんですよ? そして――大ファン、それが行き過ぎた行為を産んでいたことも、全部わかっています。名も無きエキストラさん」


 私は今から、琉斗さんとは別の方法で、紗月さんの力になるべく、戦う。


 これが、“紗月さんのマネージャー”としての、最後の仕事になることを知りながら――。

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