第40話 任務完了

「みなさまこんにちは、君の心を溶かした末に、の相手役を務めさせていただく、吉村亮でございます。このたびは――皆様に、結婚致しましたことをご報告させていただきます」


 大人気俳優の唐突な結婚報告に、マスコミ一同、今までにない盛り上がりを見せる。


「相手は!?」

「籍を入れたのは!?」

「子供は!?」

「馴れ初めは!?」


 質問は挙手をしてから、そんなルールなど知らないかのように質問攻めに逢う。

 しかし、吉村さんは全くそれらの質問には答えずに――。


「――そう、それ。人のプライベートを執拗に聞こうとするところ、それがそもそも間違ってるって言いたいんですよね」


 虚をつかれたように静まる会場。


「あなたたちには、人の結婚を、新しい出会いを、普通に祝うってことができないんですか?」


 ちなみに俺は、吉村さんの隣で立っているだけ。

 本人曰く、こんなに本音で話せる機会なんて少ないし、いざ自分が結婚する時に、発表しやすくなる環境を作りたいらしい。


 ――あぁそう。吉村さん、結婚なんて全くしていない。


「少なからず、詳細を知りたい人もいるかと」

「たしかに、少しはいるかもですね。――その少しの人、多分あなたたちだけですけど」


 今日の吉村さん、キレがいい。


「とは? 私たちの記事を買ってくださっている方々もいる以上、他にもいるのでは?」

「――あなたたち、SNS見たことあります?」

「そりゃあ、まぁ」

「なら、Twitter。開いてみてくださいよ」


 ここで、湊と晴翔の力が発揮される。

 大丈夫、あいつらならちゃんとしててくれるさ。


「なっ――!?」

「なんだこれは?」

「批判一色じゃないか……」


 誰も、たった二人によって意見が誘導されてるとは見抜けない。だからこそ、自分たちが猛批判されているかのような幻覚に陥る。


「見ました? 世論はこうなってるんですよ」

「それでも! 知りたい人だって――」

「だーかーら、優先されるべきものが間違っているのでは? と言っているのですよ。先ず優先されるべきは、当人たちであって、そのほかの野次馬ではないってことです」


 こうもぼろっくそに言われてしまうと、なかなか反論しようとは思えないのかもしれない。

 質問してくる人も、反論してくる人もいなくなってしまった。


 じゃあ、そろそろ仕上げに取り掛かるとしましょうかね。


「皆さま、私たちの意見は理解出来ましたでしょうか?」

「…………」


 俺の問いかけには、無言でやり過ごされる。やはり、そう簡単に認めてはくれない、か。


「ね、みなさん。この会見って普通に一般に配信されてるんじゃなかったでしたっけ? あんな世論の中認めなくて……どうなりますかね」

「……理解、できました」


 あるテレビ局の記者が、返事をする。

 それに続いて、他のテレビ局も。あとは、週刊誌さんだけか……。まぁ、あそこは別にいい。


「では皆様、これから自分が結婚発表するときも、節度をもって報じていただけると助かります」


 吉村さんが言う。声を震わせ、笑いを堪えて。

 そう、ここで少しでも言質を取れれば――


「わかりました……」

「では、わかっていただいたということで。あー! 僕が結婚するなんて何年先でしょうかねぇ!!」

「「――は?」」


 見事に罠にハマったメディアさん。本人から、ネタばらしされてようやく気づく。


「皆さん、今言質取りましたからね! では、本日はここまでで! ――琉斗くん、戻りましょう」

「あ、はい――。ありがとうございました」


 最後に深くお辞儀をして。裏へと引きあげていく。

 その間にも、メディアからの質問が耳に入っているが、答えない。


 裏に入って、吉村さんと話す。


「いやー。最高の展開になった」

「吉村さん、誘導尋問うますぎます」

「はは、とりあえず、これでいい感じに復讐できたんじゃないか?」

「――ありがとうございました」


 これで、まぁよし。全世界にこの会見が流れていた以上、下手な行動は取れなくなっただろう。


 以前よりは、紗月と堂々と過ごせるはずだ。

 ――あぁ。早く顔を見たい。早く話したい。

 大好きだ、紗月。








―――――――







星700行ってました!

まじでありがとうございます!

ここまで伸びると思ってなかった!

あと――5話くらいですが。

最後までよろしくお願いします!

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