第39話 まず一勝

「まずは、そうですね……私たちの記事を書いた会社の方、よろしいですよね?」

「はい、まぁ……」

「では単刀直入に。――楽しいですか?」

「は?」

「あぁ、言葉が足りませんでしたか。――人のプライベートを侵害して、人を不幸にするやり方で話題をとって。楽しいですか? そんなに、人を不幸にしたいんですか?」


 突然暴れだした俺に対して、マスコミは驚愕しているようだ。シャッター音も鳴り響く。

 上手くいけば、今の発言を切り抜いて俺の事を袋叩きにするつもりなんだろう。


 まぁ、そうならないように手を打っているわけなのだが。


「人を不幸にする、とは?」


 週刊誌の会社の人が聞いてくる。


「えぇ、分かりませんか? 今回、あなたたちがやった事は盗撮と、デマを流布したことですよ? 誰かのことを幸せにしてますか?」

「……我社のスクープを読み、少なからず素晴らしいと思っていただいた方もいたかと」

「そうですね。ですが、その人たちも全員、デマに踊らされた被害者、ととることもできるわけですがね」


 週刊誌の人たちに、押し黙られる。

 怒りが出すぎてしまっているかも知らない。

 けど、言いたいことはまだまだある。


「ところで、私がなぜこんなに怒っているのか、お分かりですか?」

「……盗撮したこと、デマを流したこと、でしょうか」


 たしかに、そうだろうな。――世間一般的に見るのであれば。


「それも、少しはありますね」

「少し、ですか?」

「というか正直、自分のプライベートが晒されることとか、自分に対する悪評を流されるとか、どうでもいいんですよ。俺が怒ってるのは、紗月を傷つけたこと」

「…………」


 敬語――もういいかな。続けるの多分無理だよこれ。あぁごめん、晴翔、湊。世論誘導するの、今からの発言でもっと大変になると思うけど。よろしく頼む。


「どう思います? 自分の好きな人のプライベートが勝手に晒されていたら。許せますか?」

「許せ、ません……」

「ですよね? あなたたちは自分がやられたら許せないことをしてんだよ。小学校で習わなかったのか? 自分が嫌なことを人にしちゃいけません、って」


 俺でも、習った。誰でも、わかるはずのことだろうに。


「紗月、すげぇ落ち込んでたんだよ。私のせいだ、私がこんな時期に恋愛にうつつを抜かして――って。恋愛することなんて、全く悪くないのに」


 自分を責める姿は、見たくないんだよな。

 悲しいじゃん。彼女が悲しんでたら。


「なぁ、まじで、ほんとに。なんでそこまでできる? 自分たちの利益が欲しい、それはわかるよ? けどさ、人を不幸にしてまでする意味あるか? ない、絶対にないだろ……!」


 ふぅーっと息を吐く。一旦、冷静になろう。

 うん、ちょっと熱くなってしまったか。


「では、もう一度聞きます。あなた達は、自分がやられたら嫌なことを人にしたらダメだとならいませんでしたか?」

「習いました……」

「じゃああなたたちのしていることは、よくないこと。ですよね?」

「――はい」


 認めさせた。よし、これでまず一勝。そして次は――


「吉村さん、そろそろどうぞ」


 吉村さんにも、協力してもらおう。

 まだまだ詰めるぞ。全ては――俺と紗月が堂々とイチャイチャできる世界線を作るために。







――――――







あと6話くらいの気がします!

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