第36話 遅れてすみません!!

『迎えに行くので、近くの駅で待機しといてください』


 ついに、会見する場所へと向かう。


 もっとも、今自分が堂々とその場所に行ってしまったら、メディアに追われて一生中に入れなくなってしまう。


 だから、監督さんがむかえにきてくれるみたいだ。ありがたい。


「だってよ、紗月。俺たちVIP待遇だぞ」

「何呑気なこと言ってんの……!? 私たち、1歩間違えれば袋叩きに遭うんだよ!?」


 ちょっと茶化して言ってみると、紗月が真剣に猛反論してくる。


「いや、まぁそれは大丈夫だと思うぞ?」

「なんで……? SNSはどうなるかわからないよ?」

「――SNSを、掌握できると言ったら?」

「……え?」

「俺さ、昨日のうちに、信頼できる人たちに頼んだんだよ。『SNSの煽動、頼んだぞ』って」


 あいつらなら、きっと任務をこなしてくれる。

 最強な、俺の親友たちであれば。


「……じゃあ、みんな私たちの味方になるってこと?」

「まぁ、その意見が大多数になるだろうな。SNSって多いものに流される習性があるし」

「……なんで?」

「ん?」

「なんで、そんなにかっこいいの?」


 かっこいい? 俺は、普通に考えうる可能性に対して対策を打っただけ……。


 あぁけど、一つおっきい理由があったな。


「まぁ、守りたかったから、かな?」


 まだ付き合う前だったけど、告白するって決めてたし。もし振られても、絶対紗月の力にはなりたいって思ってたし。


「好きな人を守るのは当然だろ? そのために、俺が会見して矢面に立つって決めたんだしさ。……まぁ、友達の力を借りてる時点で1人でかっこよく、とは出来てないけど」


 まだ、こんな浮ついたセリフを言うのは照れる。

 けど、いっぱい言っていけば慣れていくよな。

 慣れるまでの練習と思おう。


「いや、十分かっこいいよ」

「……ありがとな」


 そこで、少し会話が途切れる。

 うん、多分お互いに緊張しているんだろう。

 俺だって、紗月の前では強がっているけど、緊張している。


 だって、一般人が会見に出るんだぜ?

 いや、なにかの訴訟を起こしました、とかならわかる。けど俺はそんなんじゃない。

 ただ、週刊誌に撮られただけ。それの弁明。


 どんな質問が来るのかなんて、分からない。

 分からないことだらけなんだ。


 緊張で、少し手が震える。


「あーごめん、手震えて……」


 そう言って、1度手を離そうとする。

 手を繋いでる人が震えてたら、普通は手を離したくなるものだよな?


 けど紗月は、


「……離しちゃだめ」

「俺、震えてるんだぞ?」

「……私が、緊張を解いてあげる」


 そう言って、俺の手を揉み揉みしてきた。

 ――揉み揉みしてきた!?


「ちょっ、紗月!? お前なにやってんの!?」

「緊張解こうと思って! ほら、現にちょっと声が明るくなったでしょ?」


 言われてみて気づく。確かにさっきよりも元気になってる気がする……。


「たしかに。……ありがと」


「じゃあ、まだまだ揉み揉みしてもいいよね?」

「おう、いいぞ」


 許可を出すと揉み揉みする力がどんどん強くなっていく。まぁ、紗月の力だ。そこまで痛くはならない。


「――あ最高。私の欲望叶えてくれるなんて」

「……うん?」

「アッイヤナンデモナイヨ」


 紗月から今、なんか変なことが聞こえてきたような気がするけど――ま、いいか。紗月が幸せならそれで。


 その後も、俺の手は揉み揉みされまくって。

 迎えに来た監督さんに、とんでもない目で見られて2人とも恥ずかしい思いをしたのはまた別のお話。




 ――緊張、ちゃんとなくなってくれたな。








―――――――








遅れてごめんなさい!

星ください!




いやあのほんとに。今日もまた俺は星を手に入れられていないという。

頼みます。ほんとに。ひとつでも。

よろしくおねがいいたします。

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