第32話 恋人繋ぎ

 俺が告白する場所――そこは、俺たちが映画を見ていたショッピングモールから結構近い。歩いて行けるくらいの範囲にあるのだ。


 事前に何個か候補を調べておいてよかった。別の場所でも対応できるようにな。


「へぇ……。出店がいっぱいある……」

「今日はイベントみたいなのやってるらしいぞ? だから人も多くて、出店もいっぱいあるって」


 神社。恋愛成就に定評がある――けれども、実はあまり知られていない。そんな神社が、ここである。


「すごい。あ! あれ見て!?」


 そう言われて紗月が指さす方を向くと、【占い! 1回1000円! 的中率95パーセント!】と銘打ったお店があった。


 ……うん、こんなの絶対当たるわけないし、100パーセントじゃなくて95パーセントなのが絶妙にダサい感じがする。


「紗月は、あーゆーの信じるのか?」

「うーんどうだろ?」


 少し考え込んで、


「あ、けど! 自分に都合が良かったら信じるかな!」

「なんだよそれ!?」


 考え込んでいたからどんな言葉が来るのかと身構えていたら、まさかまさかの脳天気な言葉に笑ってしまった。


「けど、琉斗もそうでしょ?」

「た、たしかに」


 実際考えてみると紗月の言っていることが正しいのかもしれない。そう思ってくるんだから不思議なものである。


「ほら! そもそも自分に都合の悪いことなんて起きないって思って過ごさないと!」


 なんだろう、隣を歩いている俺の好きな人が、急に輝いて見えてきた。

 いや、もともと一番星のようだったけど、光属性が加わった、みたいな?

 ポジティブ思考できる人って、本当にいいと思う。


「そうだな! だから今日の大勝負だって上手くいく!」

「そうそう! それに――琉斗が頑張ってくれるんだもん、負けるわけないよ。私の琉斗なら大丈夫」

「――――っ!」


 危うく抱きしめてしまうところであった。まだ告白もしていないのに。


 けどずるいだろほんとに。急に私のとか言ってきて。すっごい励ましてくれて。


 好きだ、ほんとに。大好きだ。


 今はまだ、手を繋ぐことしか出来ないけど、今日必ず、恋人として。


「けど、ほんと色んなお店があるんだね」


 さっき見つけた占いのお店から、食品系のお店、くじ引きのお店、金魚すくいなどなど。


 あとは――


「なんだあれ? 【消えた天才 浅野玲奈の消息】……? そもそも浅野玲奈って誰?」


 ゴシップみたいな記事を売っているお店もあった。


「うーんとね、あ、格闘家だったらしいよ? しかも結構歳が若い」

「へぇ……」


 そんな人がいたんだな。知る人ぞ知る天才、ってところか。


「けど、週刊誌ってあることないこと書くからなぁほんとに」


 これは俺たちが今、身をもって体感していることである。


「けどさ」

「ん?」

「――私たちがカップルみたいっていうのは、多分ホントのことだと思うよ?」

「…………」

「だってさ、こんなに仲良くして、手も繋いで。それも堂々と。ね、見えるでしょ?」

「た、たしかに」


 紗月も自覚があったんだ、自分たちがカップルみたいだってこと。


「まぁ、手を繋いだり、仲良くするのって、琉斗と以外には絶対しないけどね?」

「……うれしいよ」

「私も、だよ?」


 ――拝啓、我が親友たちよ。

 俺は今日、好きな人の火力が高すぎることが原因で死んでしまうかもしれません。


「一緒だな」

「うん!」


 手を繋ぐ。今までは、手と手を繋いだだけで、指を絡めてはいなかった。けど――


「ね、これくらい別にいいよね?」


 紗月の指が、俺の指の間に入ってきて、恋人繋ぎが完成する。


「だめ、って言うと思うか?」

「言わせないよ?」

「言わねぇよ?」


 さっきまでよりも、紗月と手を繋いでいるっていう実感がある。


 そんな幸せを感じて、最終目的地へと向かう――。

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