第29話 俺がもっと、幸せに

 正直に言おう。俺は恋愛映画というものを舐めていた。


 普通に男女が付き合って、そのカップルに悲劇が訪れ、それをどうにか納得できる形に落とし所をつける。


 こんな普通の映画のどこが面白いんだろう、って思っていたけど――


「琉斗、泣きすぎ」

「そういう……ウゥ、そういう紗月だって」

「わ、私は目にゴミが……!」


 ――うん、すっげえ感動した。


 2人のお互いを思う気持ちが強くて。なのに、ストーリーは全然都合よくいかない。それどころか、彼らにどんどん試練を与えていく。


 途中からは、全力でふたりが幸せになってくれる未来を望んでいた。


 けど結局最後は――いや、これを言うのは無粋か。


「俺も、……ウゥ。目にゴミが入りすぎて真っ赤っかになっちゃった」

「あは、……ウゥ。感動した」


 2人とも、映画が終わって5分くらいは経ってるのにまだ泣いている。

 周りからは白い目で見られてるけど、まぁいいよね。


「はぁ……! よし、じゃあご飯食べようぜ」

「うん、私ピッズワァが食べたい」

「普通にピザって言えよ?」


 紗月の珍しいボケに笑って対応する。


「じゃ、ピザ行くか」

「レッツゴー!」


 ここの映画館はショッピングモールの中にある。だから下に行けば料理なんていくらでもある。


 その中からピザを探すことなんて簡単だろう。

 無かったら? ……そんなことを言うんじゃないよ。


「琉斗! あそこイタリアンのお店!」


 そう指さされた先には、少しお高めのイタリアンのお店。けど美味しそうなんだよな。


「じゃ、入ろ」

「やった! ピザーピザー」


 無邪気にはしゃぐ紗月の手を離さないように。

 2人でお店へと入っていく。


「やば、種類多くて迷っちゃう」

「ゆっくり選んでていいぞー?」

「……ん」


 なんだか少し、紗月が照れてるような感じがする。俺は何もしてないんだけどなぁ。ま、いっか。


 それからしばらくして。


「私、ちょっと変化球にしたいんだよね」


 そう言って選んだのは――


「は、ハチミツチーズ……?」

「そ、ちょっと変わり種を食べたいなって」

「そ、そうか」


 それにしても……。ハチミツチーズとは。初めて聞いたぞそんなもの。

 ピザって甘いってよりはしょっぱいの方が近い味だと思ってるんだよな。果たして甘いのが合うのかどうか……。


「琉斗はなににするの?」

「俺はパスタかなぁ。カルボナーラ。大好きなんだよ」

「おっけ、じゃあ頼も」


 店員さんを呼んで、注文をする。


「琉斗ってカルボナーラ好きだったんだね」


 店員さんが去って。また二人の時間がやってくる。


「うん、まぁ」


 カルボナーラさんはですね、なんだろう。あの絶妙な味が好きなんだよ。俺はミートソースアンチだからな。尚更カルボナーラがいいってもんだ。


「……ちなみに、理由は?」


 今俺が頭の中で考えていたことを、そのまま口に出してくれ、と言わんばかりの質問が来た。


 うーんけど、俺がこの料理を選んだのはもうひとつ理由があって――


「――俺がカルボナーラで、紗月がピザ。お互い違うの頼んだら、シェアできるだろ?」


 いかにも考えそうな理由を話すと――


「――――ずるいよそれ」


 何故か罵倒されてしまう。


「そうやって、私とシェアすること前提なのもずるいし、そんなセリフをサラッと言えるのもずるい。すごくずるくて――嬉しかった」


 ……あぁそっか。今のセリフって、普通に聞けばカップルのそれになるのか。


「――――まぁ、俺たちはいちばん大切な人同士、だしな」

「確かに? ……ほんっと、幸せ」


 紗月は目を細めて、いかにも幸せだという表情をしている。


 けど、こんなところで満足してもらっちゃ困るんだ。


「なぁ紗月」

「どうしたの?」


 紗月の手を握り、目を合わせる。


「――俺がもっと幸せにするから。こんなところで満足してちゃ困るぞ?」


「……わかった。まってるね」


 そう、今日この後、もっともっと幸せにしてやるんだ。そう決めている――――。









―――――――







普通に遅れました許してください。

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