第28話 すべての思いを込めて

「ね、今日は二人でデー――出かける、って言ってたけど、どこ行くつもりなの?」


 実は今日のデート、紗月には行き先を言わずについてきてもらっているのだ。


 なんでかって? ――どこ行くか決めてないからだよ。


 うん、ものすっごく情けない。今日で決めるぞ、って意気込んでたのに、その決意をしたのが昨日出会ったがゆえに、少しでもボロを出せばとんでもなく情けない人になってしまう。


 そんなことは避けたいのである……!


 だから、ここで取るべき選択肢は一つ。これが正着、というのがあるだろう。


「紗月は、どこに行きたいとかあるのか?」


 まずは相手に行き先を聞くことだ。相手がなにか要望を出してくれれば、俺はそこに行くだけでいい。


 ……もちろん、ちゃんとムード作りをする必要はあるのだが。


「うーんとね……。映画見たいんだけど」

「どんな映画だ?」

「恋愛映画で、今話題のやつ。『想い出の街で、君と二度目の恋に落ちる』っていう」

「オッケー! じゃあそれ見に行こ!」


 ……ほっとした。


 紗月が自分の行きたい場所を言ってくれたのもそうだし、映画であれば暗いから。


 身バレ――とか言う心配はほとんどないよな。


 堂々としておくっていうのが自分たちの考えだけど、話しかけられたくないっていう思いのほうが勝ってるから。


 こんな大切な日に、一般人にかまっている時間はないんだ。


 二人で電車に乗って、ちょっと遠いところにある街まで繰り出す。


 当たり前に手を繋いで歩き、電車に乗ってもその手は離れることはない。


 ――あぁ、そういえば、この街で俺が紗月を助けたところから、急に距離が近くなっていったんだったな。


 助けた当初は正直紗月のことなんて全く好きじゃなかったし。

 義務感で、ナンパから助けただけだったけど。


 今では、ナンパ師に感謝してしまっている部分もある。


 もしあの時あの場所で、ナンパ師が紗月に声をかけていなかったら。


 俺達の関係は、全く進んでいなかっただろう。

 同じクラスの、よく喋るクラスメイト。


 その程度の認識でしかいなかっただろう。恋愛関係に発展するなんて――うん、あのままだったらないんだろうな。


 ……今は、すごく幸せだ。


 好きな人が出来て。その人と一緒に、お出かけをしている。デート……って言ってもいいのかはわからないけど、それに近しいもの。


 その好きな人が、ちょっと前までは犬猿の仲だった人で。


 信じられないけど、それが現実。しかもモデル様と来た。どんな善行を前世で積んだらこうなるんだろうな。


 けど、相手がモデルかどうかなんて、全く関係ない。


 そりゃあもちろん、相手の仕事で予定が合わなかったりとかがあるのかもしれない。


 そんなことがあっても、俺は好きっていう気持ちは変わらない。これだけは断言できる。


 だって俺は――モデルとしての紗月を好きになったんじゃなくて、1人の俺と仲良くしてくれる女性である、山本紗月のことを好きになったのだから――。


 俺の手に伝わってくるぬくもりが、俺の好きな人が隣りにいてくれるってことを証明してくれる。


 そのぬくもりを一生離さないように。一生俺と過ごしてくれるように。


 そのために、今日はここにいる。


「ね、どうしたの? 私の方ばっかり見て」

「いや――ちょっと見惚れてて」


 こんな恥ずかしい言葉も、恋人になればスラスラとでてきてくれるようになるのだろうか。なってほしいな。


「……そっか、ありがとね」


 紗月と目が合い、お互いに笑い合う。


 幸せにもほどがある、この時間。嵐の前の幸福、と思ってしまってはそれまでだけど。


 その嵐でさえ、倒してやるさ。



 ――――危機は二人で乗り越えろ。



 すべての思いを込めて。俺は紗月の手を、少しだけ強く握る――――。






_______







えっすごい。如月くん、なんだか文章力が上がってる気がします。


さぁみなさま。この街モデも佳境に入ってまいりました。

なので!!(?)星を!!!ください!!!

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