第25話 意外な申し出

「え、それ利用されただけなんじゃ?」


 監督さんたちと一緒に世界を変えよう。そう決意してた日の夜。


 今日は忙しかったから私を迎えに来れなかった琉斗と電話を繋ぐ。


 今日あったことを話した。……もちろん、琉斗に対する恋心の部分とか、みんなから彼氏って思われてるところとか。


 そこら辺はちゃんと隠しておいたけど。


「……利用?」


 で、大体の概要を話してみたんだ。そしたら、話していくにつれて琉斗の声が暗くなっていって。


「そうだよ。なんか……自分たちがやりたいことを、紗月と俺のスキャンダルにつけ込んで代わりにやらせようってしてるみたいで」


 ……その考え方はなかったなぁ。


 いや、私の考えが浅かったって思えばいいのかもしれないけどさ。そんなの全く考えなかった。


「けど、監督さんたちも仲間になってやってくれるって」

「……それでも、矢面に立つのは紗月じゃないか」


 ちょっと不満そうな声色で私に言ってくる。


「そうだけどさ、ほら。今回の件って私の不注意から始まったことだし」

「……確かにそうか」


 一瞬納得してもらったような感じがして――


「え、じゃあ俺も共犯じゃね?」


 私が必死に気づかせないように頑張っていた事実に気づいてしまった。


「……けど、琉斗は一般人だよ?」


 琉斗まで巻き込みたくない。いや、既に週刊誌に撮られちゃってる時点でダメなのはわかってるんだけど。


 なるべく、なるべく琉斗に負担をかけたくないんだ。


「それでも、紗月にばっかりこれの対応させたくないんだよなぁ」


 相手に負担をかけたくない、そう思ってるのはお互いに同じみたいで。


 好きだと思っているから、この感情ですら嬉しくなる。


「そう思ってくれてるのはすごい嬉しいんだけどね?」

「……お互い相手のこと考えてるんだな」

「……大切な人、だからね」


 お互いに恥ずかしくなってしまったのか、ここで会話が途切れてしまう。


 自分は――大切な人、なんていう曖昧な表現じゃなくて、ちゃんと好きって言いたい。


 けどやっぱり自信がなくて。琉斗の方から言ってほしいな。っていうのはわがままかもしれないけど。


「そうだよな。大切な人。それも、俺の中で一番」


 琉斗は誰に言い聞かせるでもなく、ひとりでに呟く。私に聞こえてるけど――多分気にしてない。


「……だよなぁ。やっぱり俺が」


 なにかを考えていたのかな、そう思うくらい1人の世界に一瞬だけ入っていたような。


「なぁ紗月」


 今度は、いつもわたしと話しているときのトーンで。


「なぁに?」

「その、社会を変える、だっけ? ――俺にも、やらせてくれよ」


「……え? どうやって?」


 急に言われても、どうするのかすら分からない。

 何をしようって言うんだろう。危険な目にはあって欲しくない。


「――――俺が、マスコミ全員の相手してきてやるよ」


 この言葉は、今まで聞いた、どんな琉斗の言葉よりも力強くて。

 多分琉斗は、私が止めても1人で頑張るんだろうなって思って。


 だったら、私がとめない方が琉斗も頑張ってくれる。いい気分でやってくれる。


「――ありがと、琉斗」


 そんなところもすごく大好きだよ、という言葉は、まだ私の胸のうちに留めておこう。


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