第19話 俺は――――

 ⚠マネージャーさん視点




「あれでよかったんですか?」


 紗月さんは、好きな人と手を繋いでどこかへ行ってしまった。


 それと入れ替われるように隣には、この作品の監督さんが来る。


「まぁ、な。山本さんも最近悩んでたのは見ててわかるしな。……ちょっとくらい息抜きが必要なんじゃないか、と思って」

「……お気遣いありがとうございます」

「これでスキャンダルになっても、俺は知らねぇからな」


 監督さんが笑う。


「まぁ、そのときはなんとかさせますよ」

「頼んだよ、マネージャーさん」


 お互いに、握手を交わす。私みたいなただのマネージャーが監督さんと握手――――少しでしゃばりすぎてるような気もするけど、まぁいいか。


「それにしても、結構な賭けですね? いくら息抜きとはいえ、作品の存亡の危機にすら発展しかねないっていうのに」


 そう聞くと、監督さんは「なに変なことを聞いているんだ」、と一言言ったあとで、


「俺は、彼女の才能に惚れた、かな」


 ポロリと本音が漏れて。


「……本当に、ありがとうございます」

「これで、例のエキストラくんも諦めてくれたらいいんだけどなぁ」

「ですよね、まぁ無理でしょうけど」

「――あと少しの撮影、山本さんのメンタルコントロールは頼んだよ?」

「いえ、それは彼の仕事ですので――」


 まだ自分の仕事が残っている監督さんは、また職場へと歩いていく。


「そうか。――そのうち、会う機会ができるといいけどな」

「紗月さんの独占欲は強いですよ?」

「ハハッ。ならやめておくとするかな」


 さて、私も自分の家に帰るとするかな。

 ――――もうすぐくるであろう、嵐に備えないとね。







 _______







「ね、ほんとに良かったの?」


 帰り道。繋がっている手を見るたびに幸福感を感じながら歩いている。


「なにがだ?」

「いや、わざわざ迎えに来てもらってるからさ」


 愚問。圧倒的に愚問である。


「よくないと来ないだろ?」

「あー、たしかに?」


 少しだけ、紗月が俺の手を握る力が強くなる。


「それより、俺のほうが良くないことしてると思うんだけど? この姿週刊誌に撮られたらどうするんだ?」


 仮に、仮にこの姿を週刊誌に取られてしまったのなら。今紗月が撮影しているドラマはお蔵入りになってしまう可能性が結構あるのでは?


 けど、当の本人はそんなこと全く考えていなかったのようにして、


「んー、なるようになるでしょ」


 楽観的観測にもほどがある、けれどそれが紗月で。


「マネージャーさんが守ってくれる、のか?」

「――――いや、私の特別な人が、かな?」


 こんな言葉一つで、俺の胸はいやというほどに鼓動が早くなる。


「へぇ、その特別な人、頑張るって言ってるぞ?」

「頑張ってもらわないといけないからね? 頼んだよ?」

「……へい」


 照れ隠しが下手な俺達。なんだか、普通に話すことすら難しくなってしまっているように気がする。


 けれど、初々しいカップ―――――いや、まだカップルではないけど。


 仲の良い男女、特別に思っている男女だとすれば、正常なのかもしれないな。


「じゃあ、送ってくれてありがとね」

「こっちこそ、紗月と話せてよかったよ」


 紗月の家についた。ちゃんと、家の中に入るところを見届けるまでが俺のお仕事だ。


「――また、明日も来てくれるよね?」

「あぁ、もちろんだ」

「やった!」


 紗月の表情は、離れていてもわかる。今なら絶対、笑顔でいるはずだ。


「じゃ、また明日ね!」

「おやすみ、紗月」


 ちゃんと玄関の扉が閉まったことを確認して、俺も家へと歩きだす。


 この右手に残った紗月のぬくもりが、俺をひとりじゃないと安心させてくれる。






 ――――なんだ、なにが犬猿の仲だ。


 もうここまで来たら、ただのカップルじゃないか。


 なぁ、春宮琉斗。そろそろさ、自分の気持ちを自覚するべきなんじゃないのか?


 ほら、自覚したらさ―――――俺は、とう考えても紗月のことが好きなんだろうよ。


 意識しているのは、おれだけなのかもしれない。相手はただ単純に、仲いい友達って思ってるかも。


 それでも、俺は――――紗月のことが好きだから。


 ……頑張るか、明日から。

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