第18話 月明かりの中で

「あのっ! 俺と食事でも……!」

「ですから、私にはそんな時間がないって何回言ったらわかるんですか?」


 撮影も順調に進んで、ようやく1話を取り終わったくらいで。


 明日は久しぶりに学校に行けるかも……! っていう日になっても、このエキストラの人は私にまとわりついてくる。


「食事だけなら行けるんじゃないんですか……!?」

「いえ、私は高校生ですので」


 そもそもこの人には仕事がないのかな……。とか、本心から鬱陶しがってるのわかってくれないのかな……。とか思いながら、やんわり断る。


「高校生なら、一人でもいいんじゃ……!?」

「大人と高校生ならだめに決まってるでしょう……?」


 私がため息とともに返事をすると、マネージャーさんが割って入ってきてくれた。


「紗月さん、帰りますよ」


 その言葉を聞くと、ようやくエキストラは引き下がってくれて。


「災難ですね、ほんとに」

「まぁこれも一種の醍醐味なのかも?」

「……まぁ、なにかあったら私が守ってあげますよ」

「……ありがとう」


 実は最強で、武芸を習っていたらしいマネージャーさんが守ってくれる。


 心強いことこの上ないなぁ……。


 そう思って、建物の中から出て外に出ると、


「――けど、私以外にも守ってくれる人がいるみたいですね?」

「へ?」


 そう言われて外を見てみると。私の視界を奪ったのは琉斗の姿で。


「よ、紗月。来ちゃったわ」


 私の疲れも一気に吹き飛ぶ。

 私に活力を与えてくれる。

 私を――私を世界で一番堕としてる。


 そんな男の子が目の前に現れる。


 ――――大好きだよ、その気持ちが増大していく。


「ほんっと、いつ迎えに来るかと思ってたんだから」

「悪い、行っていいのかわかんなくてな」

「バーカ。――琉斗ならいつでもいいっての」


 そう言うと琉斗はふっと一つ笑って。


「じゃ、いつでも来てやるかぁ」

「約束だからね?」

「おうよ」


 彼の言葉に、心が救われる。

 更に頑張ろうって思える。







 _________









「よ、紗月。来ちゃったわ」


 我ながらカッコつけたセリフだなと思う。

 けど、久しぶりに会えた喜びが大きくて。それを隠すために、どこかそっけない言葉になってしまった。


「ほんっと、いつ迎えに来るかと思ってたんだから」

「悪い、行っていいのかわかんなくてな」


 この様子だったら、絶対もっと早くから来てたほうが良かったんだろうなぁ。


 埋め合わせ、してやるべきかぁ。


 そう考えていると、紗月の顔は赤くなって、俺のことをポコポコと叩きながら。


「バーカ。――琉斗ならいつでもいいっての」


 ツンデレ女子が言う言葉ランキング第一位。

 そして、男子が言われて嬉しい言葉ランキング第一位。


 そんなふうに断言できる言葉が飛んできて。


 あぁ、この感情は、友人に向けるものじゃないのかもしれない。


 そう思ってしまったんだ。


「じゃ、いつでも来てやるかぁ」

「約束だからね?」

「おうよ」


 いつでも迎えに来る約束をして、いつでも会えるようになって。


「――――さすが、私の特別な人」

「それは、俺からも同じことが言えるけどな」


 お互いに笑い合う。


 相手に対する言葉が、1段階上のレベルになってることには、お互いに気づいてると思う。


 けど、今はそんなことに言及なんてせず、ただひたすらにこの感情を楽しんでいたくて。


「――――ありがとう、琉斗」


 二人で並んで歩きだす。


 暗い夜の中、月明かりに照らされる俺達の手は、――――。

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