第20話 勇往邁進

『琉斗なんかお断りだし』

『俺の方こそ、無理に決まってるだろ』

『永久に馬鹿にしてあげるね?』

『残念ながら、お前が俺のことを馬鹿にできる材料なんかねぇんだよなぁ』


 2年生になって、紗月とおんなじクラスになってすぐ、俺達はこんな会話をしていた。


 お互いに喧嘩して、罵り合って。


 今思えば、周りからは喧嘩するほど仲がいい、っていうふうに思われていたのかもしれない。


 そう思うくらいに、俺達はよく話していた。


 自分たちの世界に入り込んでしまうことだって、日常茶飯事。周りにいる友だちが、たまに声をかけてくる。その声で、我に返ることも多かった。


 けど、お互いにやめようとはしなかった。


 当時は、こんな関係が心地よかったから、って言っていたと思う。しかしそれは、俺がちゃんと紗月に対する気持ちを認識していなかったからで。


 今思い返せば。俺は、その当時から紗月のことが好きだったんじゃないのかなって思う。


 そうじゃないと、もっと本気で悪口を言って。もっと本気で険悪になって。


 もっとも、俺達はそんなことにはならなかった。お互いに、話す時間のことを好きだと思っていたのかも。


 そして、俺達の関係がはっきり変わり始めたのは、どう考えても俺があいつをナンパ師から助けてからで。


 そこから、紗月の態度が、雰囲気が。少しずつ、優しいものになっていった。


 俺も、それにつられた。


 どんどん、親友みたいなことを言うようになってきて。

 どんどん、相手のことを異性として認識しだして。

 どんどん、紗月のことが好きになっていった。


 恋愛って、落とされたほうが負け、みたいなことを言われていると思う。


 けど、最初に落とされても。最終的に、自分と両思いになってくれたらそれは勝ちだと思う。


 そして俺は――――自分で言うのもなんだが、結構両思いになれる可能性が高いんじゃないのかなって。


 だから明日からも紗月のことを迎えに行くし。

 紗月になにかあったら、俺がまっさきに行動する。


 ―――あー。こんな覚悟までできちゃうとは。


 ほんっとうに、どれだけほれてしまっているんだろうか。

 けどさ、もう嘘なんてつく気はないから。


 相手がモデル様であろうと、関係ない。

 不釣り合いとか、考えるんじゃねぇ。


『勇往邁進』


 俺の好きな四字熟語。


 意味は――目標に向かって、脇目も振らずに突き進むこと。


 今の俺がするべきことを著してくれてるみたい、そう思った。


 この言葉に願いを込めて。








 ________







「……なんか不思議だな」


 琉斗が、今日から撮影現場に迎えに来てくれることになった。


 すごく不思議で、すごく嬉しい。そして、少し申し訳ない。


 わざわざ私のところまで来てもらっているっていうのが、すごく申し訳なくて。


 けどまぁ、相手も了承してくれてるしいいのか。


 それに、もう一つだけ不思議なことがあって。


 それは、今日まだ一度も、エキストラからの食事の誘いが来ていないこと。


 もちろん、ものすごく嬉しいことではある。対応するの面倒だったし、たまに撮影の邪魔したりしてるし。


 けど、毎日来ているから、って身構えて、昨日の夜に対策をねってきた私からすれば、今日話しかけられていないことがすごく不思議。


 もし諦めたのだとしたら、誰から圧力かけられたのかも気になるし。まさかあの人が自分で諦めるなんてことはないと思うから。


「はい、最初遅れ気味だった撮影も、皆さんのお陰でいいペースに戻ってきました! では、今日は解散で!」


 監督さんのその言葉を聞いた瞬間に、私は出口の方へと歩きだして。


「琉斗、待たせてごめんね?」

「んいや、いま来たとこだし。じゃ行こうぜ」


 大好きな人と二人、一番幸せな時間を享受し始める。

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