第16話 『琉斗はイケメン』

「ま、私のことは別にいいや。琉斗は最近どうなの? 私いなくて学校やっていけてる?」


 ちょっと愚痴を聞いて、慰めただけで俺達の話したいことがなくなるわけなんてなくて。


 次は俺のことを話す時間。


「まぁな。なんだかんだ友達は多いほうだと自負してるし」


 晴翔と湊は筆頭として、それ以外にも。クラスのほぼ全員が連絡先がつながっている。


 クラス内でも結構話すしな。色んな人と話したらいろんな見解が得られて楽しいんだ。


「へぇ、まぁ琉斗イケメンだし女子を無自覚に堕としてるのは当然として――――」

「ちょっとまって……!?」


 今、なんだか聞き捨てならない話が聞こえてきたぞ? 俺はそんなことを一回もしたことないんだが?


「え? 私がいない間、女子に話しかけられる回数増えたなーって思わなかった?」

「それはたしかに思ったけど……」


 事実、今までそこまで話してこなかった女子が、俺に話しかけてくるようにはなった。


 普通に友達として過ごしたいんだろ? って思ってたんだが……。


「ね、琉斗さ。一つ自覚したほうがいいよ?」


 自分の鈍感さ――――いや、紗月の言ってることが本当かはわからないけど――――に、少し呆れてる。


 俺はそんな鈍感系主人公になった覚えはないんだけどなぁ。


「琉斗は、イケメンだからね? それこそ――そこら辺にいる俳優さんとかよりは」


 そんなことない、って言いたいけど。紗月が言うからきっとそうなんだろう。


 いつも撮影で俳優さんをいっぱい見てる紗月が俺のほうがイケメンって言ってくれてるんだ。


 自信持とう。


「ありがとな」

「どういたしまして?」








「ちなみに、相手役の方とはどっちのが――」

「……聞かないで?」

「ですよね……」





 このときは、俺のほうが劣っていると思っていた。まぁ、言葉の真意を知ることになるのはもう少し先の話であるが――――。







 __________








「あの、紗月さん。僕と食事でも――」

「ですから、今撮影の大事な時期にそんな話は受けられないって言ってるじゃないですか!」


 琉斗パワーを補充した翌日、私は意気揚々と撮影に臨んでいた。


 何故か今日は監督からのダメ出しも少ないし、これなら本当に遅れを取り戻せるかもしれない。


「なら、撮影が終わってからなら……!?」

「ですから、私は学校の友達との時間を大切にしたいので」


 撮影は順調。けど今日は、新しい問題が発生していて。


 この人、私が撮影に入る前に言われていた私の大ファンの人らしい。


 それは嬉しいことなんだけど、なんかストーカー気質なのかなんなのか知らないけど、私を執拗に食事に誘ってくる。


 この遣り取りをするのも、もう今日だけで4回目。しかもそれを全部人目につかないところでやってくるからひどい。


「へぇ、彼氏がいるとかじゃなくてですか?」

「………………いませんけど」


 一瞬、琉斗の顔が頭に浮かんだ。好きな人だもん。仕方ないよね。


「その間が、おかしいんだけどなぁ」

「とにかく! 私はあなたと食事になんて行きませんから!」


 そう言って、みんながいる方へと戻っていく。

 どうしよ、このまんまだったら私、ひとりでなにもできなくなっちゃう。


 いちいち絡まれるのが面倒すぎるから。


「お、主演さんも戻ってきたことだし、撮影再開しようか……!」


 監督さんも今日は機嫌がいい。あんなやつがいなければ、私も気分よく撮影できたはずなのに――――。


 そう思い、撮影を始める。今から取るシーンは、吉村さんとの初めてのデートで――。


「紗月さん、今日の撮影の後、時間ありますか?」

「へ?」


 台本に無いことを言ってくる。しかもカメラが回っていないから演技ではない。


 ……はぁ。また面倒事が増えていく。


「あの、少しだけでいいんで! どうにか!」

「……まぁ、なら」




 私が会いたいのは琉斗なのに。その気持ちを隠しながら、吉村さんと撮影をする。


 はぁ、これであのファンの人みたいなこと言われたら私はどうすればいいんだろう……。

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