第15話 そろそろ本心で
『ちょっと話聞いてくれない?』
紗月が学校に来れなくなってしばらくして。LINEには既読がついたから、一安心。
そう思ってすぐに、こんなLINEが届いた。
『いいぞ? いつでも時間は空いてる』
今日は珍しく晴翔たちと遊んでなかったからなぁ。金欠――――許すまじ。
『じゃあ、今。電話で』
『了解』
返信して、しばらくして。電話の着信音が鳴る。
「はいもしもし?」
「琉斗、久しぶり。元気してた?」
電話の向こうから聞こえてくる声は少し疲れていそうで。いつもの紗月らしさがなかった。
「まぁ……いつもと比べたら元気はないかな」
紗月いないし、という言葉は飲み込む。そんな恥ずかしいこと、本人の前で言えるわけないし。
「そ、じゃあ私の仲間だね」
「そうだな――――けど、そっちはすごく頑張ってるんだろ?」
学校を休んでまで撮影をしているくらいなんだ。しかも主役。
地上波のドラマの主役を、高校2年生が張るなんて……。贔屓目抜きにしても、とんでもない快挙だと思う。
だからこそ、紗月がなにか抱えているのなら、話を聞いてあげたいと思う。
「そう、頑張ってる。頑張ってるんだけどね――――」
そこで一度言葉が切れて、続きの言葉は話されない。
「紗月、言いたいことがあったら全部言えばいいんだぞ。俺に遠慮なんかするな?」
別に暴言を吐きたいなら吐けばいい。それで紗月が楽になるなら、そっちのが俺の本望だ。
というか、もともと暴言はかれてるしな。何も変わらない。
「ほんとに、いいの?」
電話越しでもわかる。これは、対面で話してたら上目遣いではなしてる声だ。
「いいぞ? ――というか、いつもとおんなじようなもんじゃないか」
「たしかに? ……じゃあさ、琉斗は私が出演してたドラマ見たことある?」
紗月は今までに、3本くらいの作品に出演している。主演を張っていたわけじゃないけど、普通にセリフもあった。
「あるぞ? 上手いなぁって思ってたけど」
周りの役者さんたちと遜色ない演技を、俺の友達がしている。ほら、すごいことじゃないか。
「けどね、それじゃあ今回の監督さんはオッケーしてくれないんだ」
「…………」
「主演だから、一つレベルの高い演技を、だって。ほんと、こんな仕事受けなきゃよかったなぁ……」
紗月がこんなに落ち込んでるのは、めずらしい。
いつもならさ、ネタに走って、お互い笑って。
そんな関係性で過ごして行ってる。
けどさ、今回のは明らかにそういう雰囲気じゃない。わかるだろ?
俺は、知らないんだよ。大切な異性が落ち込んでるときの慰め方を、よく知らない。
経験がない。気遣いって、難しい。
「あーごめん、愚痴きつかったね……。とりあえず、さ。まだ学校にはいけないから声聞いときたいなって思って」
難しいけどさ、俺がいいたい言葉はあるんだ。
「紗月」
「うん?」
勇気づけられるかは、わからない。元気にさせられるかは、わからない。
プレッシャーになっちゃうかもしれない。それでも、伝えたいことがある。
そろそろ本心で接しないと。心の中の自分の気持ちに蓋をし続けるのは苦しいから。
フェーズを変えよう、その気持ちの第一歩が今。
「俺は、紗月がどうあれ、紗月のファンでいるぞ? 演技がへたっくそでも、紗月が大炎上しても。俺は紗月のファンだから。待ってるぞ、将来の大スター、山本紗月――――」
「琉斗…………」
電話越しでの空気感は、まさに告白寸前の男女みたいで。
短期間で何回もこんな空気になってるのはおかしいって思いつつも、好きなこの空気から逃げるつもりはない。
「――――ありがとね」
ちょっと柔らかくなった声で、俺まで安心する。
やっぱり、紗月は俺のいちばん大切な友達で、いちばん大切な異性だと。改めて気付かされてしまった。
「それはそれとして、だいぶクサイ言葉だったけど」
「それを言ったらおしまいですよ紗月パイセン」
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