第14話 寂しさ
「つらっ」
思わずこぼしてしまったこの言葉は、間違いなく今の私の本心を現していると思う。
一昨日から『君の心を溶かした末に(略称君末)』の撮影が始まって。
私は学校に行けていない。それだけならまだなんとか耐えられたんだけど、私の演技が下手すぎて、NGばっかりもらう。
それに、今回のドラマの監督さんは、演技に人一倍熱意があり、オッケーが出るまで時間がかかると噂の監督さん。
その噂に間違いはなくて。
「ほら、もう一回やり直すぞ! このドラマはみんなから期待されてるんだ! 最高の出来栄えにしよう!」
こんなふうに激励をもらいながら、私はまたNGが出たシーンを取り直す。
そんなことを何度も何度も繰り返して。もう心が折れてしまうかもしれない。
今日だって結局、予定してしたシーンのうちの6割しか撮影できなかった。
主演の私の責任だ。言外に周りのみんなからそう言われているみたいで。
私だって、そんな事はわかっていて。
「大丈夫ですよ、明日はきっと上手くできますから」
マネージャーさんだけは、私に優しく声をかけてくれるんだ。
彼女がいなかったら、私は全く仲間がいないままこの撮影を続けて、多分病んでいた。
――――いや、仲間はいるけど――。
「そうですよ、紗月さん! 僕の目から見ても紗月さんはめっちゃ演技上手いですから!」
そう、この男の人。私よりも2歳くらい歳上らしい。そして私の大ファンだと聞いて。
……けど、思ってたより私のファンで。どっちかと言うと私の信者に近い感じがする。
「あ、ありがとうございます……」
「僕になにか相談してくれれば、なんでも答えますから」
こんなふうに言われても、全く響かないけど。
余計な揉め事を作るわけには行かないから、これも辛抱辛抱。
「じゃあ今日は解散だ! 明日は巻きで撮影するぞ!」
監督さんの言葉で、みんな一斉に家路につく。
「じゃあ、帰りましょうか」
マネージャーさんが送ってくれるらしく、二人で車の方に行く。
あぁ、なんだかしんどいな。
もちろん簡単に撮影が終わるなんて思ってたわけじゃないんだけど。
こんなに辛いとは思ってなかった。学校にも行けてないし、しんどいなぁ。
……そろそろ琉斗に会いたいし。
帰ったら琉斗に連絡でもしようかな。
琉斗と話したら元気が出ると思うんだ。琉斗は私の好きな人だから――――。
________
「紗月、いくら撮影とはいえこんなに来ないもんなのか……」
隣の誰もいない席を見て呟く。
席替えをしてから少し経つ。最近は紗月がドラマの撮影ってことで、あんまり学校に来ていない。
それは別に仕方がないことなんだけど、やっぱり寂しさはあるよな。
「心配なのか?」
「まぁ、多少は」
晴翔よ。クラスメイトが休んでて心配じゃない人なんているのかね。いや、いない。
「というか、彼女さんにLINEとかしないのか?」
「あー、既読つかないんだよなぁ……。忙しいんだろ、仕方ない」
湊の問いかけにそう返事すると、二人は顔を見合わせてニヤニヤして。
「彼女って言っても普通に返事してくれるんだな……。やっぱ付き合ってたか……」
――やられた。
「別に付き合ってるわけじゃないからな!?」
「まぁまぁ、照れなくてもいいですよ旦那さん」
「そうだぞ?? 奥さんだって頑張ってらっしゃるんだから……」
……はぁ。これは俺のミスだから仕方がないといえば仕方がないけどさぁ……。
「お前ら、それは紗月に失礼だぞ」
「「―――――自分の行動を顧みてから言え」」
今日はなぜかこの二人に勝てない。そんな確信を持ったときであった――。
ま、なにかお願いされたらすぐに応えてやらないとな。俺は紗月の親友――――のはずだから。
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