危機は二人で乗り越えろ

ドラマ撮影編

第13話 カップルとして、彼氏として

「ねぇ、ほんとにいいの?」


 俺が待機している部屋を出ようとしたとき、紗月が話しかけてくる。


「いいに決まってるだろ? ――彼女のためなんだから」


 紗月は恥ずかしそうに体をモジモジさせる。


「たしかに私は彼女だけどさ、元はといえば私のせいで……」


 自分を攻めるような発言をしている紗月の口に指を当てる。


「なぁ紗月。今回の出来事は、紗月はなにも悪くない。強いて言うなら俺が少し悪かったかな、くらいだし。あとは全部、金目当てのあいつが悪いんだろ?」

「それはたしかにさ……」


 紗月が落ち込む気持ちもわかる。今回の問題で、普通の一般人である俺にも迷惑をかけているのだから。


 けどそれは、俺からしたら紗月に頼りにされてる、っていう嬉しい気持ちもあるし。


 なによりも、紗月を守るためなら、俺が矢面に立つことなんて厭わない。


「では、琉斗さん。そろそろお時間です」

「じゃあな、紗月。行ってくるよ」

「琉斗……! 無理はしちゃだめだからね?」

「あぁ。わかってるよ。――紗月と会えなくなるなんてごめんだからな」

「私も、また琉斗とイチャイチャしたいんだから」


 いつもみたいに顔同士の距離が近くなっていって――


「あの、お二方。イチャイチャするのはいいんですけど今から記者会見ですからね?」

「……すみません」


 危ない。また二人の世界に入ってしまうところだった。


「じゃ、またすぐな」

「琉斗さん、意地悪な質問からは逃げていいですからね!? 別に紗月の印象が悪くなってしまうことは仕方ありません。そもそも琉斗さんを矢面に立たせている以上――」


 マネージャーさんはまだ不安みたいで。俺の緊張を少しでも減らそうとしてくれる。


「ありがとうございます。けど、記者会見に出るってのは俺の意思ですし。全部答えてきますよ。そして、俺達の仲を公認にしてきます」

「……よろしくお願いいたします」


 お互いに、深く頭を下げる。


「じゃ、いっちょマスコミを捌いてくるとしますかぁ……!」


 一つ意気込みを発して、座っていた席から立つ。


 そしてマスコミたちが待っている部屋へと向かう。

 部屋から出る寸前、紗月と目があった。


 なにか言いたげな様子だったけど、わざわざ言葉にするほどのことでもなかったのか、のみこんだみたいだ。


 それに――――ある程度の言いたいことならわかるさ。


 もう俺達は――なんだから。





 さて、どうして俺が記者会見なんかをすることになっているのか。

 なんで俺と紗月が付き合い始めているのか。


 これにはマリアナ海溝よりも深い、とてつもなく深ーい理由があってだな。


 これを説明するには、少しばかり時を遡らないといけないな――。






 _______







「よろしくね、琉斗」

「俺と離れるんじゃなかったのか?」


 俺と紗月が愛してるゲームをした翌日、学校での席替え。


 俺は目論見通りに周りを仲のいい友達で固めて、素晴らしい学校生活を送ろうとしていた。


 しかし! 俺の隣の席にいるのは何故か紗月で。


「お、やっぱりカップルさんは隣の席になる運命なんだな……」


 晴翔も俺達二人のことをからかってくる。


「カップルじゃねぇけどなぁ?」

「え、あれ、そんなこと言っちゃうんだ?」


 紗月さん、昨日のことを使って俺のことをゆすってくる。


「じゃ、お前は俺とカップルでいいんだな?」

「…………ゴホン」

「おい咳したって誤魔化せねぇぞ」


「湊……。なんで俺達はこんなの見せられてるんだ?」

「よくわかんないけど、この二人がカップルだからじゃないの?」


 ちなみにこのあと、お互いに話しすぎて先生から睨まれてしまったのは別のお話。







 _______








「この度は、主演を務めさせていただく、山本紗月でございます。よろしくお願いいたします」


 ついに、私の主演ドラマ、『君の心を溶かした末に』の撮影が始まる――。


 学校を休むことも多くなるらしいけど、本気で取り組んで、いいドラマにしよう。






_______







さて、なぜ冒頭のようなことになったのか、その内容が第二章でございます!

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