閑話 ドラマの主演と姉御肌のマネージャーさん

「……え? 結局好きな人に素直になれなかったってことなんですか??」

「はい、まぁ……」


 琉斗と変な雰囲気になった日の夜。私は気づいたらマネージャーさんに電話をしていた。


 私のマネージャーさんは、19歳。私と2歳しか離れてない、いわばお姉さんのような存在だ。


 だからなにか悩みごとがあったら、結構な頻度で相談している。


 恋愛相談も、モデルだからといって止めることなくちゃんと聞いてくれる。それどころか、応援までしてくれる。そこは本当にありがたい。


「私、言いましたよね?? ちゃんと素直にならないと、取られちゃいますよって!」

「わかってますよ……? けど、どうしても恥ずかしいっていう思いが先行して……」


 昨日だって、流れで愛してるって言い合ってるときは本当に幸せだった。


 このまま、付き合う流れになればいいなって思ったし、事実琉斗は告白――と言っていいのかはわからないけど――してきてくれた。


 けど、いざ付き合うってなるとどうしてもはずかしくて。


 好きなんだよ? というか、好きすぎるんだよ?

 好きすぎるからこそ、恥ずかしい。


 こんな思いをずっと拗らせてるのが私のよくないところでもあるよねーと。


 ここで一つ、マネージャーさんがため息をつく。


「というか、紗月さん。あなた付き合ってもそんなに純情でいいんですか??」

「……?」

「あの、高校生が付き合って、キスまでで終わると思ってるんですか?」

「……あっ」


 そこまでの考えには至ってなかった。そもそも付き合うことが目標になってて、その後のことなんて到底考えられない……。


「わかります? お相手の方だって、男性なんですよ? ……ね、わかりますよね?」

「……はい」


 正直、琉斗がそんなふうになってる姿なんて想像できないけど。


「それに、お相手の方イケメンって聞きましたよ? うかうかしてたら取られるんじゃないですか?」

「うっ……。そのとおりです……」


 いっそのこと、琉斗を狙ってる別の人が出てきてくれたらいいのに。

 そしたら私だって恥ずかしがらずに過ごせるかもしれない。


 結局今は、琉斗の優しさに甘えてるんだよね。私と話してくれる。そのことが安心感をくれる。


「まぁいいや、次はお仕事の話になりますが――この話、聞きたいですか?」


 なにか含みのある言い方をしてくる。


「まぁ、はい。聞かないと進まないですし」

「あのですね――――紗月さん、ドラマの主演になることが決定しました!」

「……へ?」


 ドラマの、主演? モデルの、私が?


 マネージャーさん、私ニート有名になってほしくておかしなこと言い始めちゃったのかな。


 今までみたいに脇役ならわかるけど、主演? なにを言ってるの? ありえない……。


「あの、ほんとの話ですよ?? 二週間後から撮影が始まります。タイトルは――『君の心を溶かした末に』です!」


 なんか、こう。恋愛系のドラマなんだろうなって言うのがわかる。


「……共演者さんは誰なんですか?」

「それはですね、今をときめく大人気俳優の、吉村亮さんとか――――」


 相手役の方に加えて、脇役ポジの人まで、有名な演者さんが多い。


 そんな中に、私が……? 逃げた――


「あ、主演の紗月さんは、監督直々のご指名なんですよ! がんばってくださいね!」


 ――い、なんて言えなくなった。


「……がんばります」

「あと、エキストラの中に紗月さんの大ファンという方がいらっしゃるみたいです」


 へぇ、こんな私のファンが居るんだ。それは嬉しいことだね。


「では、頑張っていきましょー!」


 マネージャーさんが言う。


「は、はい……」


 あまり元気よく返事はできなかったけど、主演か。頑張らないとね。

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