第12話 君が世界で一番

「あれぇ……? 琉斗、もしかして私と付き合えなくてショックなの?」


 勝負に負けた。まぁ……まぁこれはいいとしよう。必勝型から覆されたって時点で屈辱的なことではあるけど。


 煽られる、まぁこれもまだ許してあげよう。俺だってたまに煽ってたしさ。


 けど、俺が一番イライラしてるのはこんなことじゃなくて。


 俺は、俺は――紗月の誘いにのっただけだって言うのにさ、それでこんなに煽られて。


 ……元はと言えば!! 紗月のほうが先に照れてただろうがよ!!


「へぇ、そんなに私のこと好きだったんだ。あ、もうゲームは終わってるからね? ……私、こんなに惚れられてたんだなぁ……!」


 うん、うざいね。とてもうざい。ものすごくうざい。


「え? 元はお前のが先に照れてたからお前の負けなんじゃねぇの?」

「……たしかに?」


 俺の反論に納得したのか、紗月の煽りが収まる。


「けど、やっぱり告白してきた人のほうがどう考えても負けだと思うんだよなぁ……。私の見え透いた挑発に乗ってきたんだもんねぇ……」

「挑発にのったことに、逆に感謝してほしいくらいなんだけどな?」

「え? 私が、感謝……? なに言ってるの? 別に私は告白してきてなんて言ってないよ?」


 けどやっぱり自分の優勢を意識しているらしく。俺のことを煽るのに執念を感じる。


「へぇ、俺が好きって言っただけであんなに喜んでたのにな」

「喜んでなんかないよ!? 私はただ、びっくりしただけで……!」


 なぁ知ってるか? こういう言い合いって、とりあえずパッションしといたらどうにかなるんだぜ?


「喜んでたよな?? あんなに顔赤くして、あんなにしゃがみこんで。な、もう認めればいいんじゃねぇの?」

「み、認めるって……! そもそも私は……!」

「あーほら、もうそれいいから。俺はわかってるんだぞ? 正直になれよ」


 実際はどうなのかわかんねぇし。本当に俺のことが好きじゃないって可能性も――いや、そっちの可能性のほうが高いのは間違いないんだけどさ。


 まぁここまで来たら勝ちたいじゃん? 逆転されて、再逆転。かっこいい。


「正直に、なる。かぁ……」


 紗月は、どこか遠いところを見て、一言呟いている。


「そうだぞ? 正直になればいい」


 けどこれで、告白されたらどうすればいいんだろうか。俺から告白みたいなことを、ノリの上とはいえしてしまっている以上、付き合うべきだよな。


 全然いやじゃないんどけどさ、喧嘩してるけど、嫌いってわけじゃあないし。


 ま、紗月がモデル様っていうところが個人的には一番怖いところで。


 紗月の足を引っ張るようなことになってほしくないっていう気持ちが大きすぎて。


 そう考えていると、


「じゃあ、正直になるね?」


 紗月も覚悟を決めたみたいで。


「私は――あんたとなんか付き合うわけ無いでしょうがバーカ! 見事に私の罠に引っかかってくれたよね! ありがとう!! あんたの愛情、受け取っとくね!!」


 とんでもない暴言が飛んできた。


 ――うん、縁切ってやろうかまじで。


「けどさ、ほんとか嘘かは置いといて、琉斗の言葉、嬉しかったよ? 私も――――友達としては、世界で一番大好き」


 しかし、とんでもない暴言に続いてきた言葉は、俺にとっても嬉しいもので。


「そうか、ありがとな」


 あんなに暴言を吐いて、吐かれて。告白みたいなことをして、されて。


 そんなことが積み重なった帰り道とは思えないほどほんわかな空気のもと、二人で家路につく。


 隣を歩く女の子は、俺にとってかけがえのない存在になっていることは間違いないな。

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