第8話 今日は引き分け

「ちょっと琉斗、話があるんだけど」


 衝撃の逆転サヨナラ負けを喫した翌日、何事もなかったかのように紗月によびだされる。


「ねぇ、明日席替えあるって聞いてた?」

「いや、聞いてないが……」


 話の内容とは席替えのことらしい。なるほど、実は俺達二人は学級委員をしている。


 だから、席替えのときに前にでたりとか、ホームルームの司会をしたりとか。そういうお仕事を二人でやっているのだ。


 ……その仕事の間にも喧嘩が絶えないっていうのは仕方がないことだろう?


「ま、席替えするんだって。それで、学級委員は席選んでいいらしいよ?」


 これはまた、すごい話が舞い込んできた。


 このことを使ってしまえば、俺は仲がいい友達たちを周りにして、最高のスクールライフを送れるってことではないか……!?


 ……いやけど、俺達以外の人はくじ引きなのか。

 あ、くじ引きで友達多いところに俺がわり込めばいいのか!


「へぇ、じゃあ俺は友達囲うかな」

「……どこらへんの席にするの?」


 俺の席なんてどこでもいいだろう。なのに一昨日見せてた恥ずかしがってる顔を向けてきて。


 答えてあげないといけないじゃないか、俺の欲望にまみれた汚い答えを。


「まぁ、そりゃ友達多いところに入るに決まってるだろ……?」


 そういえば今日は全く喧嘩腰になってないんだな、なんて思いながら答える。


「ふーん、じゃあ前の方でも友達多かったらそこに行くんだ……?」

「そうだぞ? 別に前だからって支障があるわけじゃないしな」

「……そ」


 一通り俺から聞き終わったら、紗月は興味なさそうにして答える。


 いやいや、なんか俺だけ場所聞かれてるのいやなんだけど?? ……どうせなら聞くか。


「紗月はどこに座る気なんだ?」


 普通に想定できるであろう質問をしたのにも関わらず、紗月はビクッ!! と肩を震わせて、急にモジモジし始めた。


「……ひ、秘密だし!」


 なんだかこの言葉の言い方が幼稚園児みたいに幼かったということは俺の胸に留めておこう。


「いや、俺は教えたんだから答えてくれよ?」

「やーだよ!! なんであんたなんかに私の場所を教えないといけないんだか!?」


 あっ始まった。けど負けたくねぇから。


「俺は教えてあげただろ??」

「別に強制はしてなかったよね?」

「してなかったけど教えてあげないとかわいそうだと思って………」

「いや別に、教えてもらえなかったらそれで終わってたし!?」

「んだと……!? お前、そうやって逃げる気なんだな!?」

「逃げるって何から!? 私は何からも逃げてないけど!?」


 いつもどおりにドンドンヒートアップしていく。


 まぁこれを公共の場とかでやってたら変な目で見られることまちがいなしなのだが。


 ここは学校、それも教室の中。


 周りのクラスメイトたちは俺たちが仲悪いのわかっててくれてるから、まぁ気にしてないんだろう。


 それに声控えめにしてるから大丈夫なはずだ。


「あ? というかお前、俺の席聞いて何になるんだ?」

「そりゃあ……! 近くに……いや、琉斗となるべく離れようと思っただけだし!?」

「んだよ、そんなことか。こっちが避けるに決まってるだろ……」

「あっそ、じゃあまぁいいや」


 そう言って俺の下から立ち去ろうとする。


「いや、まだ話は終わってねぇが!?」


 紗月を呼び止めようとするも……


「いや、私課題するし」


 正当な理由を突きつけられて、逃がしてしまいそうになる。けど――


「あ、やっとカップルの痴話喧嘩終わったか?」


 湊のこの一言に――


「「カップルじゃねぇし!(じゃないし!)」」


 ――二人揃っておんなじ反応をしてしまう。


「おい、反応までお揃いとか熟年夫婦かよ……」


 晴翔が追撃、クラスのみんなも同意するように頷いて、KО。


 今日の勝負は、引き分けに終わったようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る