第7話 逆転サヨナラ負け

「……で、なんの用ですかねぇ……?」


 一旦校門を出て、人気がだいぶ少なくなったところで紗月に問いかける。


 大方、昨日のことについてとかなんだろうなと。


 だってそれ以外で俺と話す必要なんであるか? いや、ない。(反語)


 そもそも今俺に話しかけてきたところでなにだ、という話。さんざん喧嘩してきたやつのことをちょっと一回ナンパから助けてもらっただけで好きになるなんて、そんなことがあるわけなかろう。


 もしもそんなことがあったなら、俺は目を覚ませと言いたいね。


 一回いいことしてもらっただけで盲目になってるんじゃねぇよ、って。


 俺の本質をちゃんと見てから好きになってくれるならいいんだけどな。


「……あの。別に話したいことがあるってわけじゃ……その……」


 うつむいて、若干顔を赤くしながら話す。

 なにを恥ずかしがっておるんだろうか……。いつもみたく喧嘩腰で来てもらっても全然構わないのに。


「いや、今日はいつもみたいに煽ってこないんだな。もしかしてナンパから助けてもらった俺に惚れたのか?」


 ないとはわかってるし、これで認められたら困るけど。


 一回くらいこういうの聞いてみたかったんだよな。ラノベみたいな経験したいんだよ。


「……そんなわけ無いでしょばーか!!」


 押し黙ってどうしたのだろうと思っていたら、急に顔が輝いて、こっちの方を向いてベロを出し、究極の煽り顔をしてこっちをみてくる。


 ……はぁ。結局これか。


 ……面白くなってきたなぁ……!


「バカ? 俺より成績が悪いお前がそれ言うのか?」


 最初はジャブ。対して効果はないだろう。何回も言ってることだから。


「あら、モデルの仕事がないのに私と少ししか順位が変わらない琉斗はもはやクズなんじゃないの?」


 カウンターパンチが炸裂。琉斗はKОされた!!

 ……なんてバカ言ってる場合じゃないんだよ。


「その少しの差が、俺とお前の大きな差、だろ?」


 結局順位は覆せない。数字が全て。数字は嘘をつかないって言うだろ?(嘘つきは数字を使うってのには目を瞑ろう)


「で? 琉斗年収いくら?」


 うん、毎度毎度言い合いをしたらこの言葉が飛んでくるんだ。そして反撃できずに負ける。


 けど俺は対策を考えてきたんだぜジョジョ……!


「ま、稼いだ年収全部お前の雑誌に消えてるからな……」


 年収の話になったら絶対に勝てない。そのことはもう受け入れよう。


 ならばどうやって勝つのか? 答えは簡単。相手に恩を感じさせればいい。


 人を幸せにする嘘はついてもいいんだよ。ほら、自分の雑誌を買ってもらってるって聞いたら幸せな気分になるだろ?


 いい嘘じゃないか……。こうやって正当化するのも悪くないよな。(悪い)


「……え、それほんと?」

「ほんとだぞ、ほんと」


 よしよし狙い通りだ。ちゃんと動揺してくれてる。このまま何も言えずになればいいんだ…………! そしたら不戦勝!


 けど、不戦勝になるわけなんてなく。照れ屋さんな紗月は俺の耳元に近づいてきて――


「へぇ、そんなに私のこと好きなんだ」


 ――勘違いされた、だと……!?


「いや、全然好きなんかじゃ……」

「けど私の雑誌買ってるんだもんね?? 買うほど好きなんだよね?? ありがと、私も買ってくれる人のことは大好きだよっ!! みんなに知らせてくるねっ……!!」


 そう言って俺と話していたところから逃げていってしまった。


 さて、ここで判定をしようか。


 ――春宮琉斗、逆転サヨナラ負けを喫する。

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