喧嘩し、溶け合う。

第5話 クラスのモデル様が! 隣りにいる人だと!?

「お、お母さん!?」

「……は!? 紗月……!?」


 隣りにいるモデル様は、突然現れた女性のことをお母さんと言う。

 

 俺は、突然クラスの美少女モデル様の名前が――それも隣のモデル様に向かって言われたことに対して驚く。


「……あっ」


 次の瞬間、隣のモデル様から情けない声が漏れる。そして大慌てしている。


 これは……。そういうことでいいんだよな?


「……なぁ、お前。もしかしておんなじクラスの山本紗月か……?」

「……うん」


 あー。なるほどね? だからあんまり好ましい反応じゃなかったわけね?


 だから連絡先も交換しようとしてくれなかったのね?

 だからずーっと顔を隠してたわけか。顔を見られたら全部バレるから。


「あら、二人とも知り合い?」


 紗月のお母さんがきいてくる。


 ……この人はなにもわかってないんだろうな。今の俺達の心境がやばいってことに。


「……まぁ、はい。おんなじクラスです」

「そう……! じゃあ私は先に失礼するわね?」


 ……やめて! お母さんいかないで! 今のお母さんがどっかに行ったら! 俺達の間の空気はどうなるの!?


 死んじゃうよ!? が仲良くできるわけないじゃないか…………!


 そんな心の中の叫びが聞こえるはずもなく。

 紗月のお母さんはどこかへ消えていくのであった……。








「で? これで満足?」


 お母さんがいなくなった紗月は、ようやく本性を表す。俺に対して、絶対零度的な声で話してくる。


「あ? お前が正体だったなんて不満足にも程があるが?」


 俺も応戦。こんなやつに口喧嘩で負けるなんてプライドがボロボロになる。


「へぇ……。あんなに鼻の下伸ばしてたのに?」


 ばかにするような笑いを含みながら問いかけてくる。

 事実を突かれているようで困る俺。


「いや……! 別に鼻の下伸ばしてたわけじゃねぇし……!?」

「へぇ。あんなに手を握ってる時は顔真っ赤にしてたのにね」


 どんどん弱みを衝かれる。


「……! いや、お前の方こそ俺が助けてやったときにヒーローを見るみたいな目で俺のこと見てただろ……?」

「……んなわけ……! あんたなんかに助けられてこっちのほうが悔しかったですけど!?」

「そう言って……! お前が照れてるのわかってるんだぞ? ほら、もう認めたらどうだ?」

「はぁ!? 事実じゃないこと認めるわけ無いでしょ!? だいたいあんたは毎回毎回私のことバカにしやがって……!」

「バカにしてるのはどっちだよタコ」

「ほら! 悪口言ってるじゃない!」

「これは悪口じゃなくて事実だっつーの」

「……消えろ」


 なんとか、形勢逆転した……。はず。


 最後はいつもの学校みたくお互いに幼稚園児みたいな言葉での罵り合いになったけど。


「で? 俺がクラスでバラしていたらいいのか? 紗月はナンパ師に襲われかけて喜んでましたよ、って」

「じゃ、私はあんたが私の手を握って興奮してた童貞丸だし男だって言わせてもらうわね」

「んだどぉ……!?」

「いや、こっちのが事実無根なんだけど……?」


 お互い睨み合う。それが何分が続いた頃、ようやく俺が耐えきれなくなる。


「……はぁ。お互いに秘密協定ってことでいいか?」


 大体は、俺がこうやって争いを終わらせようとするんだ。そっちのが早く終わるから。


「ま、それなら受け入れてあげるわ」

「なんでお前が上から目線なんだか……」


「よし、じゃあわたしは家に帰るわね! あんたとおんなじ空気を吸いたくないから」

「あぁ、こっちから願い下げだよ」


 捨て台詞を吐き合い、家に帰る。


 ……いやぁ。まさか紗月だったとは。

 驚いたけど――


 ――

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