第2話 もう実質俺がナンパ師

「「ゼェゼェ、ハァハァ……!」」


 路地裏に着き。俺と隣の女の子は共に息を切らしている。


 それもそのはず。距離にして200メートルくらい全速力で走ったからな。


 その代わり、ナンパ師から逃げれた。まぁ結果オーライといったところか。


「大丈夫、ですか……?」


 一通り深呼吸をして、お互いの呼吸側の落ち着いてきたところで、俺は隣の女の子に話しかける。


「だ、大丈夫……です。ありがとうございます……!」


 良かった。いつも読んでるラノベ通りにナンパ師から助けてみたけど、いやがられないみたいでよかった。


 たまに友達から聞くんだ。ラノベで書いてあったシーンに遭遇することがあるって。


 その時に、ラノベ通りに行動したら大体女子からきもがられるって。


 まぁそうか。『フッ!』とか言ってカッコつけてるようなやつじゃあ確かに嫌われて当然だ。


「そうか……! なら良かったよ……」


 この言葉を最後に会話が途切れる。


 おかしいなぁ……。いつもならもっと会話が弾むのになぁ……。俺、どっちかといえばコミュ力高い方なのになぁ……。


 たまにテンパるけども。さっきみたいな大男に詰められたらミジンコになるけども。


 というか、さっきから――いや、ナンパ師のところに俺が割り込んでから。


 女の子、俺に全く顔を向けようとしないんだよな。よっぽど顔に自信がない――っていうわけじゃないと思うんだよ。


 だってナンパされてたんだし。


 なんでなのか気になるよな。すごく気になる。めっちゃ気になる。


 ラノベでは、こういう時は顔を見たら超絶美少女で、そしてその超絶美少女はナンパ師から助けた俺に惚れてて。


 顔が赤くなってるけど、それがバレたくないから必死に顔を隠してる。


 知ってるぞ。こうなんだろ? 眼の前の女子は俺にほれてる! そうだ! そうに違いない!!!!!(早口)


「あ、そうだ……。今日このあとは予定とかないんですか??」


 顔を見る。それが最終目標ではあるけど、まずこの沈黙を解消することが優先。


 テッテレーン!『会話スターターキットー!』


 これを使えば、初対面の人とも会話が弾むようになるんだよ??


 という、いかにも機械が喋ってそうな声で聞こえてきそうな説明が脳内で流れながら、俺は返事を待つ。


「……実はもう、家まで帰ろうって思ってて。時間も時間ですしね」

「……そうなんですか。一人で帰れます?」


 わんちゃん。わんちゃん家まで送るっていう男子高校生大好きなSSRランクイベントが起こる可能性がある。


 そんなイベントが起こった暁には!


 あーんなことやこーんなことが! できるのではないでしょうかっ! 尊師! 尊師! あさは……!(殴


「……! 聞いてますか!? 私は帰れますよ! 今日はありがとうございました……!」


 見事に期待を打ち砕かれる。もともとそんなわけなかったんだぞ、といわれているみたい。


 まぁそりゃあ当然か。俺はナンパ師から助けただけの通りすがりの男。


 普通に考えたら敵認定されないとはいえ、馴れ馴れしくする必要は全く無いと考えるだろう。


「そうですか……。では、気をつけて帰ってくださいね」


 若干の落胆を隠して、俺は自分の家へと帰ろうとするのだが――


「なんであなたついてきてるんですか?」

「それは俺のセリフなんですが??」


 ――家の方向が一緒だったみたいです。

 ナンパ師からの保護、延長戦へ。


 ……あれ、なんかこれナンパ師がやりたかったこと俺がやってね?


 ……実質俺がナンパ師か……!



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