猫アレルギーのわたし~愛すべき猫たち~

平 遊

猫アレルギーだって猫が好き!

 猫にまつわるエッセイを書きたいと思っても、わたしは猫アレルギーだ。

 猫は大好きなのだが、わたしの体が猫を拒絶してしまう。

 マスクを付ければ大丈夫だろうと、マスクを付けて猫と戯れてみたりもしたが、その後目の痒み、怒涛の鼻水、そして喘息に苦しめられる結果となった。

 非常に残念だ。

 だから、同じく、いや、わたし以上に猫好きの母から聞いた話を書こうと思う。



 母方の祖父母の家の庭には、何匹もの猫が眠っている。

 祖父母はわたしが生まれる前に既に亡くなっていて、今は伯母がソラという猫と一緒に暮らしている。いずれはソラもあの庭で眠ることになるだろう。もう、ソラもかなりの老猫だから、その日はそれほど遠くはないのかもしれない。


 飼っていた猫はみんな可愛い猫たちだったと、母は話してくれた。

 みんな猫。されど、同じ猫は一匹とていない。それぞれに個体差、個性がある。

 わたしが実際に会ったことがある猫はソラだけだが、母から聞いた猫の話の中に、とても印象深い猫が2匹いた。

 まずはその猫達の話を書こうと思う。



 まずは1匹目。

 もう昔過ぎて名前は忘れてしまったとのことなので、仮に名前を『チビ』としよう。

 チビはどのような性格かといえば、ヤンチャ。ヤンチャ坊主な猫だったそうだ。

 母の母親、即ちわたしの祖母は、とてもマメに料理をする人で、お萩も小豆を煮て餡子あんこから手作りする人だったらしい。

 ある日、いつものように小豆から餡子を作り、バットに入れて置いておいたところ……なんと、チビはそのバットの中に思い切りダイブ!

 当然、チビは餡子まみれ。そこいら中に餡子が飛び跳ねて、お台所も餡子まみれという惨状。

 なのに、祖母の反応は


「あらあらあら……(笑)」


 その後も何事もなかったかのように、お萩を作り続けたのだとか。

 なんともおおらかな祖母だ。祖母もきっと相当な猫好きだったのだろう。

 チビが特に餡子が好きだったかといえば、どうもそうではないらしい。ただ、お萩作りに夢中になっていた祖母に構ってほしかっただけ。ただ、あの良い匂いのする黒い物体が気になっただけ。ただ、遊びたかっただけ。ただ、それだけ。

 猫とはそういう生き物だ。

 と、母は笑って話していた。

 わたしもこの子に会ってみたかったと思った。



 次の2匹目は、正反対とも言える性格の猫。

 こちらも昔過ぎて名前は忘れてしまったとのことなので、仮に名前を『ミィ』としよう。

 ミィは大人しくて非常に頭の良い猫だったらしい。

 母がまだ実家暮らしをしていた頃、実家は良くお客さんの集まる家だったようだ。

 ミィはお客さんが来るたびに、そのお客さんの肩に前足を掛けては、顔を覗き込んだという。まるでそれは


 あなたはだあれ?


 と、確認でもしているかのよう。もしかしたら本当に確認をしていたのかもしれない。

 母が外出先から戻ってきた時には必ず出迎え、体をいっぱいに伸ばして前足を母の足に掛けたとのこと。まるでそれは


 おかえりなさい!


 とハグをしているかのよう。

 ヤンチャをすることはまるで無かったという。


 同じ家で育った猫でも性格が全く異なるのは、本当に興味深い。そして当然のことながら、それぞれに愛おしいものなのだ。



 そして最後に、わたしが唯一会ったことのある、今も健在の老猫ソラの話を書こうと思う。

 何を隠そう、わたしがマスクを付けて戯れ、案の定猫アレルギーを発症したのは、このソラだ。

 そんな事すらしてみたくなるくらいに、ソラは目のクリッとした可愛い猫だ。

 伯母が住んでいる実家を母が訪ねることは、そう多くはない。けれども、ソラは殊の外母に懐いている。

 猫は猫好きが分かるというが、ソラはまた特別かもしれない。もしくは、よほど母と波長が合ったのだろう。

 母が実家に泊まる時には、飼い主である伯母を差し置いて、母の布団で一緒に眠るという。母が夜中にお手洗いに立てばソラも一緒に起きてお手洗いまで付いていき、母が用を済ますまでドアの外で大人しく待って、再び一緒に布団に戻って一緒に眠るのだ。

 ちなみに、伯母に対してそのような行動はしたことなど無いという。

 今、母は実家とは遠く離れた場所に住んでいるのだが、たまに伯母に電話をかけ、電話越しに


「ソラ~!」


 と呼びかけたりしている。すると電話の向こうから、


「ニャァ」


 と返事が聞こえる。

 わたしが同じことをしてもダメで、返事をするのは母だけだ。

 猫は人を見る。いや、人を選ぶ。そういうことだろう。

 だからこそまた、猫に選ばれた、いや、選んで貰えた時の喜びもひとしおなのかもしれない。



 でき得ることならばまた猫が飼いたいと、母は言う。でも、最期まで責任を持って飼えるとは言い切れない年の母は、猫を飼うことを諦めている。

 母に万が一のことがあった時、引き続きわたしが飼うことができれば良いのだが、残念ながら猫アレルギーを発症してしまったわたしには、それは叶わない。

 それに加えて、今住んでいるマンションでのペットの飼育は禁止されている。

 ただ、今は便利な世の中になったもので、スマホでちょちょいと検索をすれば、可愛らしい猫の動画が山ほどヒットする。


 ソラにはできるだけ元気に長生きをしてもらって。

 ソラが虹の橋を渡り他の仲間たちの所へと逝ってしまった後には、スマホの中に推しの猫を見つけて愛でるのもまた、良いかもしれないと思う、今日この頃……


【終】

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