第13話 料理を教えたください

 俺と愛月は一緒に大学を出た後、落ち着いて話ができる場所に向かって歩いていた。

 今向かっているのは落ち着いた雰囲気の小さな喫茶店だ。以前たまたまこの辺を歩いていた時に偶然見つけたのだ。

 大学から少し離れているし、場所も大通りから一本ずれたところにあるせいで人もあまり居ない。

 試験前やレポートの提出期限前などにここにきて作業や勉強をしている。お気に入りの場所なのだ。


 しばらく歩いていくと目的の喫茶店が見えてくる。


「あそこで話そう」


 指を差しながら愛月に話しかける。俺の指の先をみて店の存在を確認すると少し驚いたような反応をする。


「こんなところにお店があったんですね。しかもとっても素敵です」


 ちょっとテンションが上がっているような声色だ。きっと愛月はこう言った喫茶店が好きだと勝手に思っていたがどうやら正解だったらしい。


 そのまま2人で店の中へと入る。愛月は興味深そうに店内を見回している。


「お二人でよろしいでしょうか?」


「はい」


「では、お好きな席にどうぞ」


 店内には俺たち以外に1人客と俺たちと同じ二人組の客がいるだけだ。

 他の客とは少し離れた場所の店の窓際の席に腰掛ける。


「中も綺麗で素敵です。雰囲気も落ち着いていて私好みのお店です」


「それは良かった。俺もお気に入りの店なんだ」


「そうなんですね。よく来るんですか?」


「テスト前とか落ち着いて時間を過ごしたい時とかに利用しているよ」


「いいですね」


 どうやら愛月も気に入ってくれたらしい。


「お冷やです。ご注文はもうお決まりですか?」


 俺は愛月が見やすいようにテーブルの上にメニューを広げる。俺は何度も来ているので注文は決まっている。


「えーと……」


 慌ててメニューを見る愛月。メニュー自体はそんなに多くないのですぐに決まると思う。


「ミルクティーでお願いします」


「俺は抹茶ラテで」


 愛月のタイミングに合わせて俺の注文もお願いする。


「かしこまりました」


 そう言って戻っていく店員の姿を少しの間見送った後、愛月の方に視線を向ける。


「それで、お願いというのはなんなんだ?」


「はい。実は湊君にお料理を教えていただきたいんです」


「料理?」


 こくり、と頷く。


「以前、料理をすると言っていたのでぜひ教えていただきたいんです」


「別に教えるのは構わないが俺でいいのか? 料理をするって言っても所詮男子大学生レベルだぞ?」


「はい。お願いします」


 なにやら切羽詰まっている様子だ。


「ちなみに愛月はどれくらい料理するんだ?」


「実は全くしたことがなくてですね……」


 そう言って恥ずかしそうに俯く。全くの初心者ならば少しくらい教えられることはあるだろう。


「わかった。俺に手伝えることがあるなら協力する」


「ありがとうございます!」


「嫌なら答えなくていいんだが、なんで料理を教えてほしいのか聞いてもいいか?」


「はい。今度母親が私の元に訪ねて来るんですが、その時にちゃんと一人暮らしを出来ていることを見せないといけないんです」


 内容を上手く掴むことが出来ず首を捻る


「私の親はですね……なんというか、少し過保護なんです。私が一人暮らしをしたいと言った時も反対されたんですがなんとか説得して一人暮らしを許してもらったんです」


「そうだったのか」


「その時に出された条件に定期的に私がちゃんと生活出来ているのかを確認しに行くと言うものがあるんです」


「なるほど。それで料理か」


「料理以外のことなら人並みに出来るのですが、どうしても料理だけは苦手で……なのでついつい食事はコンビニだったりカップラーメンで済ましてしまっているんです」


 つい最近似たような食生活をしている人の面倒を見ることにしたような……


「もしそんなことがバレたら一人暮らしをやめさせられてしまいます」


 俺の家は割と放任主義だが愛月の家はそうではないようだ。それが良いのか悪いのかは俺には分からないが、愛月自身は一人暮らしを続けたいようだ。


「そんなに一人暮らしを続けたいのか?」


「はい。私にはやりたい事があります。でも、もし実家暮らしになったらやめないといけなくなってしまうと思うんです。だから、自分のやりたいことをできる今の環境を守りたいんです!」


 真剣な声を聞き、愛月の想いの強さを感じる。

 愛月のやりたいことをが何なのかは分からないが、好きなことに全力を注ぎたいという気持ちはよくわかる。

 俺も推しである花火ちゃんのことは全力で推していきたいしこれからも推し活を続けていきたい。


「わかった。協力するよ」


「本当ですか!?」


「どれだけ力になれるか分からないけどな」


「そんなこと……ありがとうございます!」


 嬉しそうな愛月に顔を見てより一層協力してやりたいという気持ちになる。


「親はいつ来るんだ?」


「二週間後だと言っていました」


「二週間か……それなら」


 これからの予定を話し始めようとしたタイミングで店員が注文の品を持ってくる。


「ミルクティーと抹茶ラテになります」


「ありがとうございます」


「ごゆっくり」


「美味しそうです」


「そうだな」


 俺たちはそれぞれ飲みながら今後の予定を決めた。思いの外簡単に予定は組む事が出来た。

 他にはどんな料理を作ってみたいのか、料理に必要な器材はあるのかなど簡単な確認のようなものをした後解散した。

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最推しのVtuberが隣に住む腐れ縁の幼馴染だったことが判明しました~不健康すぎる生活をしているようなので推し続けるためにお世話をしようと思います~ カムシロ @kamusiro

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